アバンセ館長コラム第34号(令和7年2月)
不機嫌は環境破壊
佐賀県立生涯学習センターは、毎年、家庭教育支援者養成講座(連続3回の初心者向き講座と連続5回のリーダー養成講座)を開催しています。今年のテーマは、ずばり『多様性』です。家庭における母子関係が中核となりやすい家庭教育・子育て支援の分野で、現実には存在していながら、焦点化して関わる機会や学ぶ機会が多くなかったテーマを取り上げています。ジェンダーの視点をもって家族関係を見直したり、里親養育、外国をルーツに持つ家族の事例なども学んだりしましたが、その一環で「父親の子育て支援」にも焦点をあてた企画をしました。
1月9日午前中にリーダー養成講座の第3回を、午後に第4回目を計画し、その両方の講師としてお願いしたのが小崎恭弘(こざきやすひろ)さんでした。小崎さんは保育学者で大阪教育大学教授であり、付属小学校長も兼任され、ファーザーリング・ジャパン顧問であり、すくすく子育て出演者でもあります。元、西宮市の公立保育所の男性保育士第一号の経歴もあり、現在3人の息子さんの父親です。
とにかくフランクで笑顔の方です。関西弁のイントネーションが、その軽妙な人間味をさらにアップさせておられました。小崎さんの引き込まれるようなお話の中で、多くの受講生にも、同席した私にも、ズンと刺さった言葉の一つが、このコラムのタイトル「不機嫌は環境破壊」でした。
あ~、家族関係に留まらない、名言だと思いました。とりわけ、利害関係のない対等な関係性であれば「私はあなたの不機嫌な態度に気持ちが乱される。言いたいことがあれば言葉にして欲しい。」などと言えるかもしれません。ですが、現実は、利害関係のある、対等でない関係があらゆるところにあります。相手の一方的な不機嫌さを、自分を責める非言語的メッセージと読み取って、相手の意図することに合わせることを立場の弱い側が余儀なくされる場合が少なくない気がします。「相手を怒らせないようにどうすればいいか」と考えて行動するのが常態化してしまいます。
これは健全な関係性ではありません。イライラした態度、無視する態度、不機嫌さを全開にして相手との関係性を壊している側が、立場の弱い側に「わたしを怒らせたのはあなた。私の機嫌を取りなさい」と幼稚な責任転嫁をしているにすぎません。支配-服従という暴力的な関係性の始まりとも言えます。いじめ、DV、ハラスメント、虐待など。加害者が悪いのに、被害者が悪いと責められるという、本末転倒な、共通の構図に気がつきますね。
自分の感情は自分のものです。誰からも「こう思いなさい、こう思ってはいけません」と支配されるものではありません。と同時に、自分の感情は自分でコントロールしていくものです。そうできないときのサポートが必要な場面があるにせよ、自分の機嫌は自分でとるのが自立した大人。相手を困らせたり、怯えさせたりして、自分の思い通りにさせようとするのは、乳幼児期までに卒業したいものです。相手の不機嫌さに遭遇した人も、本来は相手の問題、不機嫌さをサポートするかしないかは、自分で選択できる立場だと認識し、相手の不機嫌さの渦に巻き込まれないようにできたらいいですね。相手の安心感や自由を奪うことなく、自分の想いを伝える術を身につけていきましょう。
『不機嫌は環境破壊』私も自戒していきたいです。

アバンセ館長 田口香津子 プロフィール
アバンセ館長
佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)
認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長