アバンセ館長コラム第15号(令和5年6月)

アバンセ館長コラム 第15号  雨の日に~言葉の持つ力~(令和5年6月)

 梅雨入りとなりました。6月は誕生月です。毎年、「ハッピーバースディ、梅~雨~♪」と「To you」と「梅雨」とをかけ言葉にして歌っています。自然にとっての恵みの雨でもありますが、天候不順の日々が続くと、「洗濯物が乾かないで困る」、「かび臭いと気が滅入る」、「部屋の中も鬱陶しいけど、外出もおっくう」等の言葉がつい口に出てしまいます。少しでも気分を明るくしたいと思い、カタツムリやカエルのブローチをつけたり、明るい彩りの傘をさしたり、雨上がりの庭の草花を眺めたりすることもあります。

 

 私は、言葉遊びが好きです。正確には、日本語に関心があるといったほうがいいでしょうか。6月のコラムは、少し趣向を変えて、雨の降る様について触れてみたいと思います。雨の降り始めの様子を表すオノマトペとして、「ぽつぽつ」、「ぱらぱら」、「ざーっ」をあげてみました。「ぽつぽつ」も「ぱらぱら」も、まばらな降りかたですが、「ぽつぽつ」は雨粒と雨粒との時間差を、「ぱらぱら」は、雨粒同士の距離感を表わしているように私には感じられます。「ざーっ」は、突然勢いよく降ってくる感じがしますね。ですが、「ぽたぽた」、「ぼたぼた」となると、空からではなく、軒下などから雫が落下する感じがします。それも、「ぽたぽた」より「ぼたぼた」のほうが雫の重さや大きさが増す感じです。また、「ぽつぽつ」と似た表現に「ぽつりぽつり」がありますが、「り」がくっつくと、さらに雨粒が完結した感じ、雨粒と雨粒とが「途切れて」降っている感じが強まりますね。雨の降り続ける様子を、「ごうごう」、「ざあざあ」、「しとしと」と並べてみると、滝のように強く降っていた雨がだんだん静かになっていく様子が伝わります。「しとしと」は、湿気を含んだ空気まで想像させてくれますが、不快感はありません。これが、濁音になって、「じとじと」となると、気温や湿度が上がり、肌にまとわりつく不快感を連想します。佐賀弁になると、「昨日は、雨ん、ざあざあざあて降っとったもんね」のように、三回続けて言うので、雨が一層長く降り続いた印象になります。


 季節によって、「桜雨・菜種雨・麦雨・半夏雨・秋時雨」などの言葉もあります。雨一つとっても、なんと情緒豊かな表現があるのだろうと感動します。それは、受け取る心の繊細さの表れでもあります。微妙な変化を言葉にできる感性を大事にしていきたいと思います。それは言動のコントロール力を育てることにつながります。


 幼い子が、言葉になる前の、もやもやした状態の時に、周囲の大人から、「一人残されてさみしかったね」、「言い返せずに悔しかったね」、「我慢していたのにわかってもらえず、イライラしてしまったね」など、その状態にふさわしい言葉をかけられることで、もやもやの正体に、寂しさや悔しさや苛立ちという名前を付けてもらえるのです。それらの体験を繰り返し経ることで、カッとなって暴力をふるうかわりに、「だった、さみしかったんだよ」等、自分の気持ちを言葉で伝えることができるようになります。言葉の持つ力は大きいです。

 
 アバンセ館長 田口香津子    プロフィール


 アバンセ館長

   佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)

 認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長

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