アバンセ館長コラム第29号(令和6年8月)

アバンセ館長コラム第29号  「女らしさ」「男らしさ」を別の言葉に置き換えて 

 

 「らしく、あたらしく」が、アバンセ開設30周年のキャッチコピーとなりました。「あなたらしく、わたしらしくありたい」という意味を込めたものです。「女らしくあれ、男らしくあれ」ではないことをここにも書き残しておきたいと思います。


 改めて、「らしさ」をインターネットgoo辞典で引いてみると、【名詞や形容詞の語幹に付いて、そのものの特徴がよく出ていることを指す】と記されています。

「女らしさ」を引くと【気性・態度・容姿などが、いかにも女であると思えるようすである。女性のもつべきと考えられている特性を備えている。女性的である】となっています。「男らしさ」は【いかにも男であると思われるようすである。体格・気質や行動・態度など男性が持つべきと考えられている特質を備えている。】と、ほぼ「女らしさ」と同様の書きぶりですが、容姿はなく、体格が入っているなどの細かい違いが見て取れます。

ですが、その定義からは、具体的イメージは読み取れません。


 そこで、「女らしさ 男らしさ 具体例」で検索すると、先に「男らしさ」の項があり、強い、タフ、頼りになる、勇敢、独立性、強さ、リーダーシップ、スポーツが得意、理系、青や黒茶、理性的 が挙がっています。「女らしさ」には、優しい、周囲に気づかいができる、見た目に気を遣う、美しさ、協調性、おとなしい、文系、ピンクや赤系、感情的 が挙がっています。

 ああ、まさに、文化的・社会的に構築された性差の概念=ジェンダーですね。


 私は、男女共同参画をテーマに講演させていただくときに「もう、男らしい、女らしくない、と言う言い方を明日からやめませんか」とお伝えすることにしています。そのかわり、性別を問わず、相手に「勇敢だね」「リーダーシップがあるね」「優しいね」「気遣いができているね」と具体的な表現を使えば十分ではないでしょうかと投げかけています。ピンクが好きな人、優しい人、勇敢な人、協調性の有無を性別で決めつけるおかしさを殆どの方々が納得してくださいます。


 同じように、母性=母親らしさ=生物学的女性の特性、父性=父親らしさ=生物学的男性の特性と言う捉え方も減ってきています。同じくgoo辞典で、母性は、【女性のもつ母親としての性質。母親として、自分の子供を守り育てようとする本能的特質】、父性は、【父親としての性質】と書かれ、具体的ではありません。イメージとしては、「母性」は、包み込む、優しい、癒し、褒める、「父性」は、断ち切る、厳しい、緊張、叱るという文脈で使われることが多いようです。これもジェンダーですね。母性・父性の言葉も、性別で使いわけることはやめて、個々に「優しいね」「きっぱりしているね」「褒め上手ね」等と言い換えていきませんか。


 性別問わず、誰もが、親性、育児性を内在させています。

 親性・育児性は、従来でいう母性と父性を総称した言い方です。男性の中にも女性の中にも母性性と父性性の両方が存在し、ひとり親でも両方の原理を使って子育てをしているのが現実です。加えて言えば、親性・育児性は、本能ではなく、社会の中で学習して、育てていくものです。


 ここからは私見ですが、親性・育児性を、次世代を育てるものと広義に捉えれば、結婚・出産の経験の有無にとらわれず、職場や地域の中で発揮されることが可能だと思っています。人を育てるのは、容易ではありません。自分本位では成り立ちません。他者視点を獲得しつつ、自分自身を失わず、試行錯誤を重ねつつ、相互に信頼を構築していく営みが大事です。「あなたらしく、わたしらしく」を尊重できる関係、子育てだけに留まらないと思います。


 あらら、偉そうなことを書きました。(笑)さあ、私も試行錯誤しつつ、生涯、成長していきたいです。

 
 アバンセ館長 田口香津子    プロフィール


 アバンセ館長

   佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)

 認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長

トップへもどる