アバンセ館長コラム第20号(令和5年11月)

アバンセ館長コラム 第20号                                                  「まなびぃフェスタ」を終えて、そして「女性の暴力防止」「政治参画セミナー」にむけて(令和5年11月)

 今年9月末に、佐賀市私立保育園会からの要請で、中堅保育士研修の枠で、「保育場面に必要なジェンダーへの配慮」というテーマで研修会の講師をさせてもらいました。厳密にいえば、保育現場のほうから、ジェンダーをテーマにした研修会の講師を頼まれたのは初めてでした。


 私は、アバンセ館長になる以前は、短期大学の保育者養成に40年近く携わっており、主に、発達心理学、教育相談系のテーマの研修講師を多く経験してきました。一方で、女性学を担当したこともあり、保育分野におけるジェンダーに関する研究も細々と続けてきましたが、非常にマイナーな分野でした。


 ですから、今回の研修が殊の外、嬉しかったのです。ジェンダーのことを話す機会、保育のことを話す機会はそれぞれあっても、ジェンダーと保育の両方を話せる機会は今しかないという想いでした。


 まず、保育所保育指針には、「子どもの性差や個人差に留意しつつ、性別などによる固定的な意識を植え付けることがないようにすること」という一文があり、これが研修の根拠になることを話しました。その次に、第5次佐賀県男女共同参画基本計画を紹介し、「重点目標(2)には、幼少期からの男女共同参画について男女双方の意識の形成と書かれてあり、他県の計画に見られない表現、『幼少期からの』とあえて書かれている重みを感じてほしい」と伝えました。その後、ジェンダーギャップ指数、LGBTQ、ダイバーシティ、アンコンシャス・バイアス、プライベートゾーンなど、基本的知識やトピックスの概要を話しました。


 さあ、ここからが、大事な研修です。約30分間、「性別による固定的な意識を植え付けていたのではないかと気になる場面」ならびに「性別による固定的な意識を植え付けないよう環境を整えるなど、人権に配慮した保育を行っている場面」の両方を具体的に挙げてもらう、グループワークをしました。明日から言動を変えられる見通しを持ってほしい。自分事として考えてもらわなければ、マインドリセットと保育力のアップにつながりません。保育者は、なぜこの言動をしたのか理由を説明できることが、専門性のひとつです。逆に合理的説明がつかない場合は、性別などによる固定的な意識を植え付けている危険があります。「プールの着替えを男児と一緒にするのは嫌だという声を聞いて、男女別々の着替えスペースを確保した」という例は、保育者の意図が理解できます。状況に応じた保育者の判断が必要だからこそ、研修が必要になってきます。


 参加者の気づきの一部を紹介します。気になる場面では、「男の子集合、女の子が先などの言い方をしていた」、「男の子の色、女の子の色と分けていた」、「男の子だから女の子に優しくと言っていた」等。配慮している場面では、「お遊戯会では性別にかかわらず自分がしたい役をしている」、「遊びを決めるのは子ども達に」「男の子のくせになど決めつけた言い方をしない」等、たくさんの付箋がホワイトボードに並びました。

最後に、アバンセが保有する絵本や紙芝居の実物を並べて紹介し、活用を促しました。


 この研修は、保育者の皆さんのジェンダーに関する人権意識を向上させたいと思って臨みました。受講者は、そもそも共感性の高い人たちですので、人権センスを持っておられる方が大半で、普段から、これでいいのかなと思って保育されていた部分もあるようでした。研修が終わってから、「知らないことが多かった」、「主任保育士会でも話をしてほしい」という声をいただきました。


 これまで、長く細々と続けていたふたつの分野をつなげて話ができたことを嬉しく思います。これからも、別々だったもの、分断されがちなものをつなげる働きができたらいいなと願っています。

 
 アバンセ館長 田口香津子    プロフィール


 アバンセ館長

   佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)

 認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長

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