アバンセ館長コラム第9号(令和4年12月)
アバンセ館長コラム 第9号 相談する力~虐待サバイバー りゅうさんのこと~(令和4年12月)
龍文恵さん(仮名 、以下りゅうさん)が立ち上げた「しょうりゅうのつどい」が佐賀にあるのをご存知ですか?子どもの頃に虐待を受けた大人同士が語り合い支えあう自助グループです。こうした自助グループは全国的にも数多くありません。今年で7年目を迎えましたが、新聞の告知板に出してもらった一年目は、誰も来ない部屋で待ち続けていたと聞きます。
この自助グループを立ち上げようと思った時の話です。それまで長い長い間、心身の不調に苦しみ、職場も辞めるしかない、死ぬしかないと思った時、りゅうさんは、「毒になる親」という本に出合います。そこで、虐待を受けていた過去と今の苦しみがつながり、自助グループの存在を知ります。佐賀に自助グループはないのかと行政・相談機関をめぐって尋ねますが、ないことがわかります。「なら、もう死ぬしかない」と思った時、最後の相談先で「ないなら作りませんか。」と提案されたのです。その方をはじめとして、りゅうさんは、自助グループを一緒に考え、行動をしてくれる数名の仲間とその後出逢うことになります。
私は、2018年にりゅうさんを紹介され、自助グループとは別に、りゅうさんの体験を語る機会を4回ご一緒に開催してきました。2019年11月30日、初めて10数人の前で、過呼吸が出るかもしれない不安と対面緊張のなかにあっても、インタビュー形式で自身の体験を話されました。その後、報道機関の取材、授業のゲスト講師など、さまざまな機会に人前で話す経験値を積まれます。4回目のコラボとなる2022年11月3日のアバンセでの講演会には、NHK佐賀の竹野大樹アナウンサーが参加されました。そして、12月6日NHKラジオ深夜便▽人権インタビューで、りゅうさんの体験談が全国放送され、その放送を聞かれた方からの反響が彼女のもとに届いているそうです。彼女の存在に救われた方たちが確かにいます。それがまた、りゅうさんを勇気づけてくれます。
私は、この5年間で別人のように変貌していくりゅうさんの姿に感嘆するばかりです。
今もりゅうさんは、完全回復しているわけではありません。虐待の後遺症で苦しい状況に陥ることもあります。活動が目立ってくると周囲の何気ない言葉に傷つく機会も増えます。りゅうさんは、それでもなお、諦めずに誰かに相談をする、そして再び、活動を続ける力を持っています。「私のような苦しみを誰にも経験してほしくない。虐待を失くしたい。」という強い願いが彼女の原動力です。
人生の苦しい局面でも、誰かに話をすることは生きる力です。アバンセにも、相談窓口があります。是非、声を寄せてください。お話を聴かせてください。
※以下のYouTubeチャンネルに、11月3日の講演がアップされています。りゅうさんご本人による様々な虐待を受けた体験談です。視聴者ご自身の心身の安全性を確保されてご視聴ください。

アバンセ館長 田口香津子 プロフィール
アバンセ館長
佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)
認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長