アバンセ館長コラム第8号(令和4年11月)

第8号 初代館長 船橋邦子さんと私(令和411月)


  アバンセが開館した1995年、私は、10歳、8歳、5歳の子の母親であり、夫は長崎に単身赴任中(週3日帰宅)で、専業農家である夫の両親と同居する、短期大学の教員でした。掃除、洗濯、料理も得意とは言えず、仕事と家庭の両立に苦戦していました。帰宅後、子どもと笑って過ごす短い時間が生きがいでした。家父長制の風土がまだ強く残っていた頃です。朝起きてから夜寝るまで働き尽くめの義理の母の姿を見ながら、私には決して真似できないし、女性だからと言って同様な生き方を押し付けられたら大変だと恐れていました。

 そんな時、船橋邦子さんが初代館長に就任したというニュースを知りました。全国公募で800人から選ばれた船橋さんは、朗らかで親しみやすく、芯が通っていて、その人間的魅力にいっぺんで大好きになりました。私は嬉しくて「船橋さんようこそ」と佐賀新聞ひろば欄に投稿したのを覚えています。

アバンセという拠点ができた当時、佐賀県の多くの女性たちが、船橋邦子という一人の女性が起こす新しい風を体感しました。慈雨と言ってもいいかもしれません。乾いていた土地にぐんぐん水がしみこんでいくように心が潤い、元気になりました。

私も開館後まもなく、お休みの日に3人の子をつれてアバンセに通い、研修を受けました。「このゆびとまれ」という自然発生的に生まれた女性グループの世話役もしました。そして第4回世界女性会議NGOフォーラムに派遣する女性の翼団員募集を知りました。夫は長期出張が当たり前、でも私は、子どもと離れて外泊したことが殆どなかったのです。一週間も子どもと離れて大丈夫なのかと迷いましたが、意を決して家族に相談し、団員に応募しました。

 それが、人生の分岐点の一つになったと思います。船橋さんとの出会いが、DV・虐待・性暴力・犯罪被害の民間支援組織、「被害者支援ネットワーク佐賀VOISS」の設立へとつながり、私のライフワークとなりました。本当に得難い出会いの一つです。

 アバンセ開館から27年後、今年の10月に、船橋さんが佐賀にお見えになりました。一緒に北京NGOフォーラムに行った仲間である山﨑和子さんが、男女共同参画社会づくり功労で内閣総理大臣表彰を受けられた祝賀会へ参加されるためです。その前日の忙しい隙間を縫って、古巣のアバンセに寄ってくださいました。当時と変わらない屈託のない笑顔とパワフルな船橋さんと再会できて、感激しました。

こんな好機を逃してはなりません。船橋邦子さんが佐賀県の女性たちをどれほどエンパワメントしてきたのか、その功績の断片でも記録に残したい。というわけで、船橋邦子さんとの対談録画を、本人のご了解を得て、YouTubeに載せることとしました。どうぞ、ご覧ください。

 
 アバンセ館長 田口香津子    プロフィール


 アバンセ館長

   佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)

 認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長

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