令和3年度男女共同参画の視点を取り入れた防災リーダー養成講座
「NOひとりぼっち!防災まちづくり ~私たちができること~」
佐賀県立男女共同参画センターでは、地域で防災活動をされている女性や防災に関心のある女性を対象に、「NOひとりぼっち!防災まちづくり~私たちができること~」をテーマとして学ぶ、3回連続の「男女共同参画の視点を取り入れた防災リーダー養成講座」を開催しました。
本講座は、過去に発生した災害の実態調査や男女共同参画の視点を取り入れた防災の先進事例から学び、誰ひとり取り残さない安全・安心な災害に強いまちをつくるために、私たち一人ひとりができることを考えるための講座です。
第1回 「男女共同参画×防災」 ~その時、被災地で何が起きたのか~
講師:池田 恵子さん
(静岡大学教育学部教授/同防災総合センター兼任教員、減災と男女共同参画研修推進センター共同代表)
(12月4日 土曜日 13時00分~16時00分 アバンセ第2研修室)
第1回のテーマは『男女共同参画×防災』です。
まずはじめに、「男女で異なる被災経験と対策」について学びました。過去の災害の経験から、生物学的な違いや固定的性別役割分担意識に代表されるような社会的に求められる責任や役割の違いから、災害時に直面する困難やニーズが、性別や立場によって異なることが明らかになってきました。
例えば、避難所での環境が整っていなかったことで、着替えや授乳がしづらかったり、下着が干せないといったことがありました。また、小さい子どもを育てる家族や障がいを持つ人とその家族が、避難所に居づらい思いをし、危険な自宅での在宅避難を余儀なくされたことがありました。
復興期の問題としては、女性が今後のことを決める議論の場に参加しにくかったことや、仮設住宅等で新しい人間関係を築くことが難しかった人が孤立やアルコールの問題等を抱えました。また、役職を持った一部の男性に避難所の運営が任せきりとなったり、女性のみに炊き出しの負担がのしかかるといったことが生じて、男性も女性も疲れ切ってしまったことを教えていただきました。
このような問題を解決するために、国の『防災基本計画』や『男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン』、『人道支援の必須基準』の9つの原則などを確認しました。「女性は主体的な担い手である」ことや「被災した地域や人々は、それぞれのニーズにあった支援を必要な時に受けられなければならない」こと、「同じ支援でみな平等ではなく、個人を大切にし、結果においての平等を目指す」ことの大切さを学びました。
後半では、災害時の女性と子どもの安全について学びました。阪神淡路大震災(1995年)では、発生状況を示す客観的な資料がなかったため、暴力の発生を否定する反応やバッシング、デマではないかという声がありました。しかし、東日本大震災(2011年)では、講師の池田さんも関わられた「災害・復興時における女性と子どもの暴力に関する調査」が実施され、防災の課題としての認識が進んでいることを知りました。
最後は、学んだことを参考にしながら、「私たちができること」をグループで考えました。
グループからは、事前にやれることとして、「今日学んだことを皆が知っておくことが大事。事前に勉強会をする!」「まずはじめに、家族や友人に伝えることが大切」「ご近所さんと普段から声を掛け合う」「外部に頼る。頼れる団体やグループを知っておく」「避難所ごとにマニュアルをつくる」「男女で防災対策班をつくる」などの意見がでました。また、災害が発生した時にやれることとしては、「避難者の声を聴くために、意見箱を設置する」「チェックシートを活用して、避難所のチェックを行う」「暴力は全体に許さないという雰囲気を作る」などの発表がありました。
皆さんの発表には、一人ひとりの人権を一番に考えた取組や対策が多くありました。災害時には、皆も我慢しているのだからと助けを求めにくい雰囲気があります。私たち一人ひとりが身近にできることから参画し、気づきや考えを発信・行動していくことで、助かった命をその後の避難生活で落とさないように、地域や団体で取組を進めていただきたいと思います。
固定的性別役割分担意識とは
男女を問わず個人の能力等によって役割の分担を決めることが適当であるにも関わらず、「男は仕事・女は家庭」、「男性は主要な業務・女性は補助的な業務」等のように男性、女性という性別を理由として役割を固定的に分ける考え方のこと。
第2回 「地域づくり×防災」 ~いつかではなく、今やれること~
講師:柳原 志保さん(歌う防災士 しほママ)
(12月12日 日曜日 13時00分~16時00分 アバンセ第3研修室)
第2回のテーマは、『地域づくり×防災』です。
講師のしほママは、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、そして、2020年の7月豪雨を経験されました。東日本大震災を経験するまで、しほママは災害に備えた準備をしていなかったそうです。子どもを暖めるための防寒着を持っていなかったこと。食べ物を持っていなかったこと。そして、仕事や家族のことで忙しくて地域活動に参加できなかったこと。そのため、避難所に知っている人がいなくて心細かったことなど、避難所で多くのことを後悔されたそうです。「過去の災害で困った教訓を生かすことが防災です。持続可能な開発目標SDGsの誓い『誰一人取り残さない』とあるように、災害時も、誰も取り残さない地域を作っていきたい」とお話を始められました。
しほママの教訓と防災の知恵を元につくられたクイズに挑戦しながら、地域での啓発活動のコツを楽しく学びました。日常生活の中で簡単に取り組める防災術は、簡単に楽しく続けることができそうなものばかりです。
例えば、役に立つものや情報にアンテナを張る「0円防災」、“いつもの行動がもしもの時に役立つ”ことを知るためのしほママ作曲&振付の踊りや歌、阪神淡路大震災の後に生まれたカードゲーム「クロスロード」の体験など、参加者のみなさんの活動にすぐに役立つスキルや情報を教えていただきました。
特に、クロスロードは、正解のないゲームです。「立場によって答えが変わる」という気づきを得ることができます。過去の災害で経験した性別や立場による困難を生み出さないためにも、多数派に流されがちな物事を決める場面で、少数派の意見も大切にすること、その答えの背景や事情を想像すること、そして、自分の想いを伝えることの大切さを学ぶことができました。
次に、地域づくりのポイントとしてしほママが地域活動で大事にされていることを教えていただきました。
1.地域の役員に女性が3割以上いる。
2.役員に女性や福祉関係者などを入れる。
3.会合(会議)のやり方を工夫する。会議時間やツールを活用し参加しやすく!
4.行事をマンネリ化させない。
このように、多様な人が参画し、また関わることができるように工夫することで、「防災活動は地域をより良くするための切り口」になると、しほママが実践されている地域活動をもとにアドバイスをいただきました。日ごろ防災訓練に参加しない人が参加できるように、婚活やスポーツなど、いろんな入口を考えながら、地域での防災活動を進められているとのことです。参加者は、しほママの具体的なアドバイスにより地域での啓発活動のイメージが湧いてきたようでした。
最後に、「無理をすると長続きしないので、家庭や地域の中で無理なくできることを続けることが大切。今日、私がまいた種を地域で育ててください」と参加者にエールを送られ、講座は終了しました。
第3回 「誰ひとり取り残さないための防災プログラムを企画しよう!」
講師:古賀 桃子さん(特定非営利活動法人ふくおかNPOセンター代表)
(12月26日 日曜日 13時00分~16時00分 アバンセ第2研修室)
第3回のテーマは、『誰ひとり取り残さないための防災プログラムを企画しよう』です。
はじめに、グループで自己紹介をしました。グループは、今後の取組に備えて、なるべく近いエリアでグループ分けをしています。自己紹介では、「お名前」「ご所属」「ご当地自慢」「今日のめあて(これだけは持ち帰るぞ!)」を共有しました。
グループでの自己紹介が終わると、皆さん共通の「今日のめあて」を確認しました。共通のめあては、「身の丈にあったプログラムを作る」です。「身の丈」とは、後ろ向きの意味で捉えがちですが、「無理をしないで」「着実に」「成果・達成感・成功体験を得られる」という前向きな含みがあります。
参加者は、参加動機や被災体験等もそれぞれです。それぞれの目線における身の丈に合ったプログラムを企画することを目指しました。
そして、企画づくりの参考にしていただくため、古賀さんからは、“誰も取り残さない”ための全国各地の様々な事例をご紹介いただきました。どんな人たちが、どんなところにこだわって取り組んでいるのか、防災の基本を共有しながらも、支援と遠くなりがちな(なりそうな)方々や情報が届きにくい方々にどう届けるのかを確認し、参加者は多くの学びを得ることができました。
講座前半のまとめとして、すぐに取り入れられる、楽しさを全面に出した「ハッピーな防災」のコツを教えていただきました。
1.相手の暮らしぶりなど見て、ターゲットを絞り込んで設定する
2.キャンプやネイルなど、人を惹きつける面白い仕掛け(キラーコンテンツ)を有効活用する
3.「自分だったら」という視点を入れると、他の人も参加しやすくなりやすい
他にも、広報や連携などのコツについてもアドバイスをいただきました。
一方で、つながらない権利もあることを知りました。古賀さんは、「動員型にはなじめない、キラーコンテンツには腰が引けてしまう方もいることを忘れないことが大事です。外出できない人や参加できない人等への手法として、万能ではないにせよSNS等の別のアプローチを考えることも必要です」とまとめられました。
講座後半は、「企画を立てよう」ということで、古賀さんに提供いただいたワークシートをもとに、「目的」「対象者」「場所」「内容」などの詳細を考えました。最初は、個人でじっくりと考え、その後、グループ内で一人ずつ発表し、それぞれの企画に対して、コメントを交換し合いました。
その後、グループから1企画ずつ、メンバーから推薦を受けた企画者が発表し、全体で共有しました。防災リーダーの育成や啓発のための防災ブックの作成、子ども防災リーダーの育成、地域に住む独居高齢者が防災訓練に参加するための企画など、身の丈に合った防災プログラムの企画を共有しました。
最後に、皆さんの発表を受けて、地域や職場で取り組むためのコツを古賀さんからアドバイスいただきました。「おいしいところはつまみ食いし、すでにあるものを生かしながら、身の丈に合った活動を自分目線で実践しましょう!」と参加者にエールを送られ、講座は終了いたしました。
修了証交付
「男女共同参画の視点を取り入れた防災リーダー養成講座」は、参加者のみなさんに、男女共同参画の視点を取り入れた防災を、地域で核となって進めていただくためと、女性の防災リーダー同士の横のつながりをつくるために開催しています。3日間の講座すべてを受講された12名に、「修了証」を交付しました。
また、地域の避難所の運営に男女共同参画の視点を取り入れていただくために、参加者全員に「男女共同参画の視点を取り入れた避難所運営の手引き(佐賀県立男女共同参画センター制作)」をお贈りしました。
最後の閉会の挨拶では、佐賀県立男女共同参画センター 上野事業統括から参加者の皆さんに、「防災は、誰しもに関わってきますが、防災を担っていく中心は、男性になってしまっています。過去の災害から、男女共同参画の視点がないと、女性も男性も不利益を被ってしまうことはわかっています。ぜひ皆さんに、地域で3日間の研修を活かして欲しいと願っています。それぞれの地域、職場、団体で、今回学んだことを伝えていただきたいと思います」とエールを送りました。
参加者からの感想(抜粋)
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今までの災害時のデータをもとに説明を受け、大変わかりやすかった。ワークで皆さんの考え方がわかり、とても参考になった。
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今日学んだことを持ち帰り、活動の各場所で伝えていき、みんなで考えてみたい。
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実際の声を聞き、大変勉強になった。ワークがあり、人が知恵を出し合うことの大切さを改めて感じた。普段からの勉強や対策がいかに大切か、逆に広めることの難しさもあると思った。
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地域のことを地域の人でできるように、つながること・話し合うこと・認め合うこと・一緒にたくさん考えて創ることの大切さを改めて感じた。
- 自分の得意分野を災害の際にも生かしたい。
- 具体的な企画を立案することで、より身近に考える事が出来ました。
- Noひとりぼっち防災まちづくりの具体的な進め方がわかってよかった。
※チラシ (1223KB; PDFファイル)(令和3年度男女共同参画の視点を取り入れた防災リーダー養成講座)