令和7年度生涯学習関係職員研修(ステップアップ編2)報告
佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員を対象に、必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員研修」を行っています。
今年度は「社会教育の風向き ~人と人をつなぐ学びのこれから~」をテーマに、年間で全6回(基礎編、ステップアップ編、地域支援編 各2回)の講座を実施します。その様子をレポートします。
「ちいさな社会を愉しく生きるために‐そっとささえる「公」の役割」 (5729KB; PDFファイル)
ちいさな社会を愉しく生きるために‐そっとささえる「公」の役割‐
令和8年3月5日(木)13時30分~16時30分
令和7年度最後となる生涯学習関係職員研修を開催しました。
大正大学教授、東京大学名誉教授で、国の生涯学習政策の方向性を議論する中央教育審議会生涯学習分科会副分科会長を務める牧野篤さんを講師に迎え、「ちいさな社会を愉しく生きるために‐そっとささえる『公』の役割‐」をテーマにお話しいただきました。
この1年間、本研修で学んできたことを振り返りながら、私たちが携わる「公」の仕事とは何か、社会教育の視点から住民にどのように寄り添うことができるのかを改めて考える機会としました。
1部:「公」とは何か?‐社会教育の視点からとらえなおす‐
「ふるさと」とは?
牧野さんは冒頭、今回のテーマに触れながら「社会に信任をつくっていくということを考えるとき、国という大きな単位で考えるよりも、自分たちが暮らしているコミュニティ、もう少し小さな人間関係の範囲で考えていくことが大切なのではないでしょうか」と語り始めました。
続けて「最近の社会情勢の中で不安を感じている人も多いと思います。しかし、そうした中でも自分たちの身近なコミュニティで物事を考えていくと、正気を保って生きていくことができるのではないか。そうした“小さな社会”を、ある意味で寄り添いながら支えていく公共のあり方について、今日はお話ができればと思います」とあいさつされました。
お話のはじめに、牧野さんは受講者に向けて「みなさんにとって、“ふるさと”と言える場所はどんな場所でしょうか」と問いかけました。
近年、学校教育の中では地域の歴史や文化、産業などを学び、地域への愛着を育む「ふるさと教育」が広く行われています。しかし、それが必ずしも子どもたちの「ふるさと愛」に結びついているとは言い切れない現状もあります。
益田市の「ひとづくり」
そこで紹介されたのが、島根県益田市の「ひとづくり」の取り組みです。
益田市では、子どもと大人が、人生や地域のことを語り合う場をつくる取り組みを、長年にわたり積み重ねてきました。大人が自分の人生や失敗を率直に語り、それを子どもたちが受け止める。そうした関係が生まれる中で、子どもたちは、地域の大人を身近な存在として捉え直し、自分の生き方や、地域との関わり方を考え始めていきます。
牧野さんは、ふるさとについて次のように語られました。
「ふるさとというのは、知識を与えることでも、あなたたちが後継者だから跡を継ぎなさいということでもない。ちゃんと面と向かって受け止めて、まずはいい関係の中で子どもたちを育てていくこと。それに尽きるのではないでしょうか」。
さらに「そういう関係がある中で地元のことを教えられると、それまで他人ごとだったことが自分ごとになっていく。自分がこの社会の中に、ちゃんと位置づいていると感じられるようになる」と述べられました。
益田市では、子どもたちが「やってみたい」と思うことに地域の大人が寄り添い、その挑戦を後押しする文化が育まれています。誰かがワクワクすることを始めると、その楽しさが周囲にも広がり、人と人との関係がさらに豊かになっていく。そうした地域の姿に、受講者も強い関心を寄せていました。
そして、その活動の拠点の一つになっているのが、公民館です。子どもや大人の「やってみたい」という思いに、公民館職員や社会教育主事が寄り添い、地域の活動を支えています。
2部:ちいさな社会からひろがる地域の関係
‐そっとささえる「公」の役割‐
公民館とは
戦後、公民館は、住民が平等な立場で意見を交わしながら熟議を重ね、自分たちの地域のあり方を、自分たちで決めていくための”場”として設置されました。誰もが学ぶことができる場所として、公民館は地域社会の基盤を支えてきたのです。
牧野さんは、公民館の原点について「住民が集まり、学び、生活をよりよくしていくための場所だった。一歩先の生活を見せてくれる場所でもあったのです」と振り返ります。
しかし高度経済成長期以降、行政の縦割り化が進む中で、公民館が担っていた役割は徐々に外へと分散していきました。教育行政の一翼を担う、社会教育の実践の場として機能していた、公民館の役割は変化し、さらに近年の少子高齢化・人口減少の影響もあり、そのあり方は大きく揺らいでいます。
つながりの土壌を耕す社会教育
一方で現在、公民館は教育行政の枠を越え、地域共生社会の拠点や、農山村の活動拠点として改めて注目されています。防災や福祉、産業振興、文化交流など、さまざまな分野の基盤となるのは地域のつながりです。
その「基盤をつくっていくのが社会教育の役割」と牧野さんは示します。
「社会教育は、これまでの“学校教育以外の”という議論ではなくて、むしろ一般行政も含めて、この社会が円滑に動いていくために、人々のつながりや関わりをつくるための、さらにその土壌を耕しておく役割を担う、一番大事なものなのです」と強調されました。
牧野さんは、これからの地域社会のあり方について「地域の人たちが、自分たちの暮らしにプライドを持てるかどうかが大事。自分たちの地域は自分たちでつくるという誇りがあると、人は自然と地域に関わろうとする」と語りました。
そして、その関係を支える価値として「コンパッション」という言葉が紹介されました。
「コンパッションというのは、相手の苦しみや悲しみを自分のこととして受け止めようとする姿勢です。人が人を思いやり、その痛みに寄り添おうとする関係が社会を支えるのです」。
Do-erになっていく
研修の最後に牧野さんは、全国各地で小さく開かれている“場”の事例を紹介されました。それはいずれも住民の「ワクワク」や「やってみたい」という思いから始まった取り組みです。
「住民が互いに高め合い、地域の中でちゃんと位置づけられることで、人はDo-er(やる人)になっていく。地域にいい関係があると、やりたくなってしまうということが起こる。そして次々と新しいことが生まれていく。その中で、人は当事者になり、自分のできることを持ち寄りながら、みんなでこの社会を経営していくことになるのではないでしょうか」と締めくくりました。
1年の学びをふりかえる
社会教育の役割とは、まさにその関係が生まれる土壌を地域の中に育てていくことにあります。
今回の研修を通して、公共を担う私たちの仕事は、制度や事業を動かすことだけではなく、人と人とのつながりを育み、住民一人ひとりが誇りを持って地域づくりに参画できる社会を支えていく営みであることを、1年の学びをふりかえりつつ、改めて実感しました。
参加者の声
アンケートより(一部抜粋)
- 公民館が資源だ!と確信しました。
- 社会教育の目指すべき姿を見つめなおす事ができました。また目標をもって頑張れそうです。
- 社会教育に期待されていること、これからの仕事の関わり方、大きな影響を与えてくれそうです。
- この数年で世の中はどんどん変わって、それに伴って社会教育の役割もどんどん重要視されていると感じました。
- この1年の豊かな学びのおかげで、社会教育の必要性、可能性を改めて考えさせられています。


















