令和7年度生涯学習関係職員研修(地域支援編1)報告
佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員を対象に、必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員研修」を行っています。
今年度は「社会教育の風向き ~人と人をつなぐ学びのこれから~」をテーマに、年間で全6回(基礎編、ステップアップ編、地域支援編 各2回)の講座を実施します。その様子をレポートします。
地域支援編1は鹿島市の鹿島新世紀センターで開催しました。(共催:鹿島市教育委員会)
地域支援編1 「場は人なり!‐対話がうまれる空間づくり‐」のチラシはこちら (6060KB; PDFファイル)
場は人なり! ‐対話がうまれる空間づくり‐
令和7年11月7日(金)13時30分~16時30分
地域支援編では「小さな自治をつくる‐オーガナイザーから実践者へ‐」をテーマに2つの研修を行います。まちづくりの主体は住民であることを念頭に、地域で小さな実践の場をつくってみると、どんなことが起こっていくのでしょう。鹿島市での2回の研修を通して探ります。
1回目となる今回の研修には、島根県益田市で長年、行政の立場から「ひとづくり」を推進し、現在は地域の中で、実践の場を広げている大畑伸幸さんと、岩坂菜月さんを講師にお迎えしました。
1部:場は人で動き出す!‐まちの関係をつむぐ「学び」の空間づくり‐
地理学から考える
島根県の西の端に位置する益田市。県庁所在地から遠く離れたこの地で自由にひとづくりが育まれているのは、地理的条件が「住民の気質を形作っているから」と大畑さんは研修のはじめに示しました。
「県庁まで車で4時間もかかるような場所だからこそ、自分たちの商売や生活をどう守るかを常に考えてきた。埋没せずに、変わったこと、楽しいことをやろう!と思うんです」と笑います。
辺境の地だからこそ「スタートはわたしたちの足元から、私たちのことは、私たちで決めていく」という気持ちが育まれたといいます。
なぜ今、人のつながりが必要なのか
大畑さんは霊長類学者・山極壽一さん(総合地球環境学研究所所長)の研究を引き合いに、人間を「分かち合う生き物」と定義しました。サルはえさを独り占めしますが、ゴリラは他者と分かち合う性質を持っているといいます。「共感する力(コンパッション)だけは、間違いなく人間がゴリラと違うところなんです。誰かのために頑張る姿に感動するのは、僕たちの本性にあるからなんですよ」。
孤独は免疫力を低下させ、発病率や犯罪率を高めます。大畑さんは「1人でいる方が楽だ、なんていうのは、人間の本性から離れたことなんです。 誰かと共に食べ、語り合うことは、単なる理想ではなく生存のための本性です」と説き、「だからこそ対話を通した、ゆるやかなつながりが必要」と話しました。
「対話」をスキルとしてとらえなおす
一方、現代の子供たちは、自分たちが属するコミュニティ内での「会話」には長けていますが、異なる価値観を持つ他者との「対話」を苦手としています。大畑さんは、再任用で赴任した中学校での経験から、子どもたちの直接的な体験の不足を危惧しています。
「子どもたちを納得させようと、言葉で説明しても無駄です。大事なのは、その気にさせること」。そこで提案するのが、対話の「ゲーム化」です。
「対話はスキル。心の中で『何言ってんだ!』と思ってもいいんです。とにかく笑顔でうなずく『はー!へー!ほー!』、否定しない。そして深掘りして質問する。それが信頼につながるんです」と示しました。
岩坂さんも「自分の発言に対して何かしらリアクションが返ってくる場所は、やっぱり居心地がいい。それは、気を許している状態なのかなと思います」と対話が生む安心感について言葉を重ねました。
2部:対話をきわめるワークショップ
早速、受講者も実践です。「今日の気分は何パーセント?」「みんなにとって居心地のいい場とは?」など、はじめましての受講者同士、「はー!へー!ほー!」と深堀を意識して、対話を深めました。
人がつながる土壌を耕すために
益田市では、コミュニティスクールを導入した学校に、地域と学校をつなぐ「ふるさと・ひとつなぎコーディネーター」を配置しています。岩坂さんもその1人です。コーディネーターは、子どもたちや学校、地域の声を丁寧に拾い、対話を通したつながりの場をつくっています。
また、大畑さんは「親世代は忙しいから、退職した僕たちの世代が子どもの活動を丹念に支えています」と話します。
その結果、公民館の職員が子供一人ひとりの名前を言えるほどの関係が築かれました。地元企業に就職した女の子が「休みの日は地域の活動に参加できるから」と就職理由を語ったエピソードは、参加者の心を打ちました。学校の先生は異動しますが、地域の人はそこに居続けます。子供たちが帰ってこられる「居場所」は、そうした地道な対話の先に作られるのです。
人がつながる土壌を耕すために
最後に、大畑さんは「人がつながる土壌を耕すことが社会教育」 と示されました。
現在、国の中央教育審議会でもそう議論されています。
社会教育とは、行政の効率のためではなく、一人ひとりのウェルビーイングのために存在します。
岩坂さんが益田市ではじめた「わいわい広場」。市役所の前の広場に七輪を出し、集まった人たちが持ち寄ったものを焼いて食べるというシンプルな活動がはじまりです。これは「誰かのため」といった義務感ではなく、岩坂さん自身の「楽しい、やりたい」という気持ちからスタートしました。自分が楽しんでいる姿を見せることで、周囲も「好き勝手やっていいんだ!」と安心して集まり、自分のやりたいことを話し始めます。こうした「自分がまず楽しむ姿」こそが、他者が入る余白を作り、新しく、ゆるやかなつながり(弱い紐帯)を生み出すのです。
大畑さんと岩坂さんの言葉から、私たちが本来持っている「分かち合う本能」に火を灯し、足元から地道につながっていくことの大切さを学びました。
参加者の声
アンケートより(一部抜粋)
- 対話によって自分のことが深堀されて、自分の知らない一面に気づけて学びになりました。
- ぜひたくさんの人にこの輪を広げていきたいです。
- まず自分のやってみたいを好き勝手やってみようと思いました。
- 始まってからずっとお話に引き込まれて聞いていました。感動したポイントが多すぎて…とにかく良かったです。
- 「つながり」の大事さが分かりました。開かれたコミュニティ…閉じられがちなので開く努力が必要。やりたいからスタートし、ゆるやかな弱い紐帯。


















