令和7年度生涯学習関係職員研修(ステップアップ編1)報告
佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員を対象に、必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員研修」を行っています。
今年度は「社会教育の風向き ~人と人をつなぐ学びのこれから~」をテーマに、年間で全6回(基礎編、ステップアップ編、地域支援編 各2回)の講座を実施します。その様子をレポートします。
ステップアップ編1 「人づくりにまえのめり! ‐つなぎ手と仕掛人 地域をつくるわたしたちの仕事‐」のチラシはこちら (1262KB; PDFファイル)
人づくりにまえのめり! ‐つなぎ手と仕掛人 地域をつくるわたしたちの仕事‐
令和7年10月16日(木)13時30分~16時30分
ステップアップ編1回目となる今回の講座では、行政の枠を超えて「ひとづくり」を仕掛ける島根県益田市教育委員会の社会教育主事・桐雅幸さんと、地域に飛び込み「小さな景色」を変え続ける島根県吉賀町、柿木公民館主事の円山洋輔さんを講師にお迎えしました。
地域で時には中心に、時には黒子となる職員の実践から学んだ、講座の様子をレポートします。
1部:社会教育による学びを通したつながりづくり
対話は「宝物」を探す旅
はじめに桐さんから、受講者の皆さんに「私が今日お話しすることは、一つの事例に過ぎません。何が正解かは、皆さんの現場の中にしかないんです。でも、それぞれの現場には必ず『宝物』が眠っています。今日はそれを一緒に探す対話の時間にしましょう」と力強い呼びかけがありました。
まずはアイスブレイクです。
桐さんが強調されたのは「対話はスキルである」ということ。 ポイントは「笑顔で頷く」「はー、へー、ほー!とリアクションする」「相手の内面を深掘りする質問を繰り返す」。
対話を助けるカードを使いながら実践です。
ポイントを意識するだけで、参加者の皆さんの表情がみるみるほぐれていくのが印象的でした。
「ひとが育ち、輝くまち益田」社会教育主事の仕事
続いて、桐さんによる益田市での取り組みのお話です。
昨今、島根県益田市が市政をあげて取り組んでいる「ひとづくり」が全国的に注目を集めています。
益田市が取り組んでいるのは、単なるイベント作りではありません。
「人口減少は避けられない。ならば、今ここに住んでいる人がいかにイキイキと過ごせるか」。そんな問いに向き合い、子どもを中心にしながら、対話を通して子どもも大人もつながる活動を丁寧に積み重ねてこられました。
そのために益田市では、「ひとづくり」に関わる縦割り行政を廃し、課を越えて代表者が集まったプロジェクトチームを結成。子どもたちにはワークキャリア教育だけでなく、大人の多面性を学んでもらいたいと、学校での様々な対話プログラムを通して、地域の人同士がつながる場をデザインしています。
「子どもの活動ではあるけれど、それをきっかけに、大人たちもつながったり、元気になったりするのが社会教育のよさですよね」と語る桐さん。
その取り組みを中心的に担う教育委員会が「強制的に何かしてくださいと言ったことは、ほとんどないんです」と胸を張ります。
日常的な「つながりづくり」のための公民館の役割
地域の中には学校があり、家庭がある。そしてその2つを包み込むように公民館があります。
益田市では公民館を「ひとづくりの館」と称し、職員の皆さんは「集う・学ぶ・結ぶ・生かす」という4つの視点を常に意識されています。
もともと中学校の理科教員である桐さん。この視点をいかして公民館で開かれた「星空観察会」のエピソードを紹介してくださいました。「学校では星空のことを教えて終わり。本当は実物を見せたいけれど授業内だけでは限界がある。そこで、公民館さんの出番です。学校の学びと結びつけることで、子どもたちの豊かな学びの場が生まれる。嬉しいですよね」と笑顔をこぼします。
公民館と学校、その両方を往来しながら地域の人と共に学びを深めるプロジェクト。その関係性にそっと伴走するのも、社会教育主事である桐さんの大切な仕事です。
「みなさんがいかに主体的に学び続けられるか。そして、学びに来られた方々同士が、それを機会につながっていくかが大切だと思います」と話しました。
こうした益田市の10年におよぶ「ひとづくり」の歩みは、徐々に数字としての結果にも表れています。高校3年生を対象にした『将来に対して明るい希望を持っていますか』というアンケート。日本の平均が54%であるのに対し、益田市ではなんと82%という結果が出たそうです。
「まだまだ課題もありますけれど、対話を通して子どもも大人もつながる活動を丁寧に行ってきた結果が少しずつ、出てきたのかなと思います」。桐さんの言葉に、受講者の期待が大きく膨らんだのを感じました。
2部:公民館は可能性の塊!‐地域を耕す20のテクニック‐
続いては、地域の中心的な存在である公民館での活動を、様々な方向からデザインする円山さんのお話です。
円山さんのライフワークの1つでもある、けん玉を首にかけて登場です。
「桐さんが『まちの大きな仕組み』をお話ししてくれましたが、僕の方はもっと泥臭い、とある1人の公民館主事としての考え方を共有させてください。」と力強く切り出した円山さん。自身の活動を通して考え抜いた「地域を耕す20のテクニック」をもとに、公民館主事の仕事を語ってくださいました。
「社会を変えるぞ!なんて大きなことは言いません。僕は地域の土壌をじっくり分解させる『微生物』のような気持ちで活動しています。現場で実践できそうなエッセンスを、一つでも拾っていただければ嬉しいです」と話し、会場の笑いを誘いました。
移住して公民館主事となった円山さんのモットーは、「楽しく学ぶ、こっそりごっそり変える」。 制度や慣習に縛られすぎず、住民一人ひとりにスポットライトを当てる。そんな公民館主事を目指しているといいます。
自分たちのまちは、自分たちでつくろう
島根県吉賀町は、島根県の西の端に位置し、人口は約5,500人。円山さんが主事をつとめる柿木公民館のある吉賀町内には、高校はなく、小学生が53人、中学生20人と、とても小さなエリアで活動しています。
「公民館っておもしろい、色んな可能性がある」と語る円山さんは、東京大学名誉教授の牧野篤先生の言葉を自身の指針にしています。
「公共がサービス化して、住民の間に『誰かがやってくれる』という雰囲気ができてしまった今、もう一度、一人ひとりがまちの担い手だという意識を持って動いていく。その動きを公民館が主導していきたい」。
まずは挨拶する関係になり、日常的なつながりをつくる。その場所である公民館は、社会にとって必要な「インフラ」なのだと円山さんは胸に刻んでいます。
子どもの「好きなこと」から広がる地域の輪
そんな円山さんは、地域全体で子どもを育てる土壌づくりを行っています。 「課題解決というより、新しいことをやりたいという気持ちで動いています。子どもたちが地域にどっぷり浸かることで、大好きなまちや、隣に住まう人のために何かしたいと自然に思えるように、好きなことを見つけて広げていきたい」。
社会教育のメリットは、課されていることが少なく、教育や地域のためであれば「好きなことが何でもできる」点にあると円山さんは言います。 自身の「やりたいこと」と「地域のため」を掛け合わせ、けん玉クラブやダンス教室、子どもたちが自然の中で思いっきり遊べる「プレーパーク」などをはじめました。学校では関わりが難しい子も「ここなら楽しすぎる」と話すなど、学校や家庭以外の居場所となっています。
自ら外へ出て、導線をつくる
「公民館に勤めるまで、公民館は自分とは関わりのないマイナーなイメージだった」と振り返る円山さん。
だからこそ、その魅力を伝えるために自らどんどん外へ出ています。
「外に出て思いを伝えれば、呼応してくれる人は必ずいる。SNSでの発信や、楽しく見てもらえる紙媒体を作ることで、社会教育の世界を知ってもらうことが重要です」。
若年層に来てもらうための「導線」を考えて発信を始めたところ、窓口や受け皿を待っていた人たちからの問い合わせが増え、公民館に多くの世代が訪れるようになりました。
「少人数だからこそ、一人ひとりにスポットライトを当て、地域の人が輝く舞台をつくれる。そんなカルチャーを創造していきたい。気づいたら『こっそりやって、ごっそり変わっているね』と思われたらいいなと思っています」と笑顔を向けました。
私たちが今から現場でできること
講座の締めくくりには、参加者全員で「次の一歩」を考えるワークを行いました。
お2人の話を聴いた受講者たちは、事前に記載していた自身の現場での活動内容、課題点に、今後挑戦してみたいと思うことを加え、それぞれ書き出しました。
桐さんと円山さんが一貫して伝えていたのは、「まず自分が楽しむこと」、そして「対話を諦めないこと」です。
お2人の話で、改めて「地域づくりに完成はない」と感じました。 現場でうまくいかないことがあっても、それは新しい対話が始まる「チャンス」なのかもしれません。
最後は円山さんがけん玉の華麗な技を披露してくださいました。
「今日はありがとうございました。皆さんの現場の宝物、今度ぜひ教えてくださいね!」
お2人の爽やかな笑顔と共に、講座は幕を閉じました。
参加者の声
アンケートより(一部抜粋)
- 公共の大切さをあらためて理解できたとともに、可能性を感じることができた。公共を育てる必要性は急務だと感じた。
- 自分から出向くこと、地域をつなぐ触媒となること。
- 対話、話すこと、日頃の関係づくりがまずは大事と思いました。
- 自分の足で外に出て、情報を仕入れることが大事だと思いました。
- 実務で役立つ内容で刺激を受けました。
- 益田市の実践をやってみたいと思いました。やりたいことが増えました。


















