令和7年度 家庭教育支援者養成講座(基礎講座)第1回報告
共に生きる 共にゆれる
近年、家庭を取り巻く社会はめまぐるしく変化し、親子の関係も多様化しています。
「家庭」に正解がない中で、支援者はどのように寄り添えばよいのでしょうか。
本講座のタイトル「共に生きる 共にゆれる」には、多様な親子に寄り添う支援者としての“ありたい姿”を、参加者の皆さんと共に考えたいという願いを込めました。
講師は、武雄市で子どもや親子の居場所「よりみちステーション」を運営している小林由枝さんです。
全3回の講座を通して、支援の現場から見える課題を整理し、支援者としてのアクションを考えていきます。
家庭教育支援者養成講座(基礎講座)チラシはこちら (2041KB; PDFファイル)
第1回 家庭教育支援者とは ~支援の現場から~
令和7年9月25日(木)13時30分~16時30分
講座1日目。
県内各地から、子育て支援や居場所づくりに関わる方、これから活動してみたいと考えている方など、さまざまな立場の参加者が集まりました。
冒頭、田口館長からあいさつがありました。
「大事なところは守らなければいけない。でも、人との関係の中で揺れることもある。その“揺れ”を大事にしたいですね」と、講座に込めた思いが語られました。
また、子どもの声を聞きながら物事を決めていくことが、まだ十分に根付いていない県内の現状に触れ、
「私たちのペースに子どもを乗せて動かそうとしていないか、この講座の中で振り返ることができたら」
と、参加者に投げかけました。
講師の小林由枝さんは、これまで自身が何度も本講座を受講してきた経験を明かし、「佐賀の皆さんからたくさん学ばせていただき、実践の場を持ってきました。
佐賀の子どもや親子の環境が、少しでも良くなることにつながればと思っています」と、少し恥ずかしそうに挨拶されました。
自己紹介の時間
最初のプログラムは自己紹介です。
名前や活動場所に加え、「好きなこと」「子どものころに好きだった遊び」を紹介し合いました。
子どものころの話題になると自然と笑顔が増え、会話も弾みます。
支援者という肩書きを一度脇に置き、「1人の人」として出会い直す時間が、場の緊張を和らげていきました。
「家庭教育」を家庭だけの責任にしない
いよいよ講座に入っていきます。
お話の冒頭、小林さんは、活動の原点を見つめなおすために「家庭教育」という言葉を調べたエピソードを紹介されました。
文部科学省の定義にある「基本的な生活習慣」や「信頼感」「思いやり」の育成。
一見、親へのプレッシャーになりそうな重い言葉ですが、小林さんは、その後に続く「社会全体で子育てや家庭教育を応援していくことが求められます」という一文に救われたと言います。
「お父さん、お母さんだけに責任を押し付けるんじゃない。私たちがいる理由は、そこにあるんです」と示されました。
管理・監視される子どもたちの「息苦しさ」
話題は、現代の子どもたちが置かれている「息苦しさ」へと移ります。 SNSの普及、GPSでの管理、そして「正解」を求める大人たちの視線。
「今は、よりみちさえしにくい世の中。大人の管理下で、常に『先生』と呼ばれる上下関係のある大人に囲まれている。子どもたちが、親にも言えない秘密を持ったり、路地裏で泥だらけになって遊んだりする『隙間』がなくなっているんです」と指摘します。
小林さん自身、商店街で育ち、近所の人たちの背中におんぶされながら、色水遊びに夢中になった原体験があります。 「あの時の、何かが混ざり合って変化していくワクワク感。ああいう『遊び』の中にこそ、生きる力があるはず」と力強く話されました。
子育て支援制度の充実やその変遷が語られる一方で、現場の実感として示されたのは、支援が増えてもなお続く親子のしんどさでした。
「『心配だから…』という大人の思いが、子どもの自由や回復力を奪っていないでしょうか」という小林さんの率直な問いに、参加者は頷きながら、それぞれの現場を思い浮かべているようでした。
実践の声から見えてくる「支援の原点」
後半は、小林さんの実践の話に続き、みやき町で活動する「どろっぷ・みっくす」の取り組みについて、メンバーの井元智恵さんからお話がありました。
決まりごとや禁止事項が増えている公園が多い中で、「子どもたちが遊ばないのではなく、遊べなくなっている」という問題意識から、「どろっぷ・みっくす」では、プログラムを決めず、子どもがやりたいことを選ぶ外遊びの場を開いています。
活動には、プログラムがありません。
用意されているのは、泥んこ遊びができる場所や、シャボン玉、時には外で読むための絵本など、遊びのきっかけになるような道具だけ。
「『外遊びが大切だからさせなきゃ』ではなく、子どもが『やりたい』と思った瞬間に立ち会いたい。大人はただ、そばにいて見守るだけ」と井元さんは語ります。
「親が1対1で子どもに向き合うと、つい『汚さないで!』『危ない!』と制限してしまいがち。けれど、地域の中に”何をしてもいい、何もしなくてもいい”という余白があれば、親もまた、ありのままでいられるのです」と明かしました。
井元さんは、「子どもがやりたいと思ったことが遊び。何もプログラムは決まっていないけれど、誰もがいられる場所であり、自分にとっても心地いい場所にしたい」と、笑顔で話されました。
「あの人がいる」という安心感を
最後は、小林さんと参加者全員で、1日目の講座を振り返り、感じたことを共有しました。
「何かをしてあげる(Do)」支援から、ただ「共に在る(Be)」支援へ。 小林さんが25年の活動を経てたどり着いたのは“安心感の輪”を広げることでした。
「支援者は、専門家である前に一人の人間。悩み、揺れ、一緒に『うーん』と考える。そんな大人たちの姿を見て、子どもたちは『世界は安心できる場所なんだ』と、また一歩踏み出していけるんです。助けてと言わなくても、『あの人のところに行けば大丈夫』と思える存在があることがお守りになる。子どもにも大人にも、『あの人がいる』という安心感を、地域で育んでいけたらいいですね」とやわらかい笑顔で締めくくりました。
支援とは、何かをしてあげることだけではなく、“そこに在る”こと自体が力になる。
そんな気づきが、参加者の間で静かに共有された時間となりました。
◆参加者の声
アンケートより(一部抜粋)
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こんな心地のよい研修は初めてでした。
- 何もしなくていい。存在しているだけでいい。安心感を与えられる大人でありたいと思いました。
- あらためて、心のより所となれる支援者としてどうあるべきか考えるきっかけとなった。
- ちょっと泣きました。
- お守り的な存在、地域のおばちゃんになるという言葉がとてもすばらしいと思いました。


















