令和4年度生涯学習関係職員実践講座(地域支援編1)報告

佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編、ステップアップ編、地域支援編)を行っています。

今年度は初の試みとして、「課題解決支援おうえんBOOK(※)活用編」「ICTを活用した新たな学びを考える編」の2つの連続性を持たせたテーマで実施!その様子をご紹介します!


【※課題解決支援おうえんBOOKとは…市町、公民館等、佐賀県立生涯学習センター(アバンセ)の3者協働で地域の課題解決に取り組んでいる「課題解決支援講座」の10年間、31地域の試行錯誤をぎゅっとまとめた冊子。令和4年3月発刊】

おうえんBOOK表紙


地域支援編1 課題解決支援おうえんBOOK活用編

「社会教育にふれる ~withコロナ時代の地域との新たなつながりづくり~」

令和5年1月13日(金)13時00分~16時30分



チラシはこちら (1784KB; PDFファイル)


「課題解決支援おうえんBOOK(以下おうえんBOOK)活用編」の最後となる今回の講座も、基礎編(1)ステップアップ編(1)に引き続き、上野景三さん(前アバンセ事業統括、西九州大学子ども学部学部長/写真下)を講師に迎えて開催しました。

講師の上野さん


前半は『おうえんBOOK』アドバイザーとして編集委員会での助言やコラムを提供いただいた岡幸江さん(九州大学大学院人間環境学研究院教育学部門社会教育学教授)と、古賀桃子さん(特定非営利活動法人ふくおかNPOセンター代表)にご登壇いただき『試行錯誤が生み出す地域の幸せ』と題して、上野さんとの鼎談を行いました。


後半は岡山市、広島市の公民館と佐賀県立生涯学習センター(アバンセ)が『ICTを活用したこれからの社会教育』をテーマとした事例報告を行いました。当日は対面とオンラインのハイブリッド開催で、広島市や福岡県、大分県の県外の公民館職員もオンライン受講されました。


会場の様子


施行錯誤が生み出す 地域の幸せ

初めに『おうえんBOOK』アドバイザーコラムの内容を振り返りながら、お二人のアドバイザーからお話をいただきました。


登壇の古賀さんまず、古賀さん(写真左)は『課題解決そもそも考』というテーマで書かれたコラムで一番伝えたかったという『脱自前主義』について話されました。「これは最近、企業のトップもよく口にされるワードですが、公民館でも自己完結で何もかも対応してしまわずに、他とつながることを考えて取り組んで欲しい。そうすることで、継続性や発展性が持てるのではないでしょうか」と述べられました。一方で「今は営利、非営利問わず誰しもが『課題解決』という言葉を口にする時代になったけれども、社会教育は必ずしも『課題解決』が一番の理念なのだろうか?」との問題も提示されました。社会教育や公民館は『集う、学ぶ、むすぶ』の言葉に象徴されるように、いろんな人が関わり合いながら、その中で学びを深め、自主的な取組みも生み出す、学びや体験が最たるところ。トレンドの『課題解決』の流れに引っ張られ、そもそもの社会教育の取組みが小さくならないよう、学びや体験、楽しさという観点からプロセスの在り方にも関心をはらいながら、終わった後どういう展開にもっていくかという、出口戦略までを見ていくことが大事なことと話されました。




登壇の岡さん次にアドバイザーの岡さん(写真左)からは、社会教育はまだ内内主義的である点が語られました。「公民館は誰にでも開いていて、一緒に取り組んでいこうとしたはずなのに、多くの人に『公民館は何をしているのかわからない』という印象を与えている」と話され、それは「伝えることや外に開いていこうとする努力が足りないからではないだろうか」と問題点を投げかけられました。そうした中に『課題解決』は誰とでも共有しやすい言葉。アバンセで取り組んだ『課題解決支援講座』はここにフォーカスをあてて、社会教育的なアプローチを『おうえんBOOK』で示したことは大事な一歩だったと、コラムの内容を振り返りながら話されました。さらに、アドバイザーの古賀さんのプロフィールにも使われている『黒子』という言葉は、伴走役やプレーヤーの下支えというイメージで社会教育とつながるが、最近ビジネスやまちづくりの分野でよく使われる『巻き込む』という言葉には、自分がやりたい方向に周りを引っ張っていくイメージがある。社会教育の中では、使う人や使い方によって違った方向に行ってしまう恐れもあり、危うさを感じていること等をお話いただきました。




上野さんからは「公民館は地域のためにと活動するが、地域とともにという思いで活動することが大切なのではないだろうか」と、アドバイザーの話を紐解かれました。つまり『For』より『With』という考え方です。『For 地域』では成果主義が発生してしまいますが、『With 地域』という考えで、社会教育は地域住民と一緒に取り組んでいくことが大事であること。また、地域課題解決の中で役立つ人材だけにスポットをあてるのではなく、公民館の独自性を活かした『With 地域』の取組みを模索し続けることが大切なことだとまとめられました。そして、公民館だけで走らずに外部の様々な機関や人ともつながりながら、課題解決を背負い過ぎず、頑張りすぎないことも忘れないでと呼びかけられました。


ICTを活用した これからの社会教育

後半はコロナ禍において、ICTを活用した公民館活動に取り組まれている、岡山市と広島市から2つの県外事例に学びました。


ますはじめに『オンラインを活用した双方向の関係づくり』と題して、岡山市立高島公民館社会教育主事の小槇祐子さん(写真下)に報告をしていただきました。


高島公民館小槇さん

岡山駅近くの高島中学校区にある高島公民館は、岡山市に37館ある公民館の中でも年間利用者が多い公民館です。しかし利用者は高齢者が多く、固定化も目立っているという現状から、利用の少ない40代前後の方に足を運んでもらえる仕掛けづくりに取り組まれました。


ターゲット層へのヒアリングを続け、小学校のPTA会長と話しをする機会を得た小槇さん。話し合いを続けていくうちに、保護者と公民館の共通の目標が見つかり、そこから新たな講座が生まれ、さらに講座に参加した30代40代の新しい人達と関わるきっかけをつかまれたそうです。「保護者世代をつなげたらもっとおもしろいことができるかもしれない。気軽に話せる場をつくろう」と動き始めたところ、コロナにより中断。しかし、その間もSNSで意見交換を続けていたところ、メンバーからオンラインを活用した『おしゃべりシェア会』(以下シェア会)の提案があり、会の誕生につながりました。当初5人で立ち上げた『シェア会』ですが、人が人を呼び、今では21人のメンバーで、意見交換や情報交換を続けられています。「こうしたつながりが途切れないためには、子育てや仕事に忙しい人も参加しやすい環境づくりが大事」と小槇さんは話され、耳だけ参加(聞くだけ)や、話し合いをレコーディングしてSNSにアップし、欠席者も内容を共有できようにしていること。出欠や日程調整はアプリを活用して行う工夫等、みんなで敷居を低くするやり方を実践されている様子が紹介されました。


講座チラシ

話し合いの内容

ボランティア募集

中学生の声









また、『シェア会』の活動から生まれたのが、中学生の地域参画を推進する『高島地域づくり隊』です。漠然とした地域貢献ではなく、具体的なイメージができて中学生の興味があるもので募集をかけようとなり『地域貢献×デジタル』が発案されました。普通はボランティアに申し込まないような中学生も、デジタルのスキルを身につけられるとあって、20人を超える申込みにつながったそうです。活動では『シェア会』メンバーがデジタルを教える役を担い、子ども達と一緒に地域づくりに取り組まれています。


デジタルを上手に活用することで、高島公民館はこれまで公民館とあまり縁のなかった30代から50代の世代とつながることができました。地域にはいろんな活動をしている人がいるものの、一足飛びにその人達とつながることはできません。けれども、オンラインで気軽に話せる場として生まれた『シェア会』が、人と人をつなげ、つながる場として動き出し、高島の未来づくりの起点となりました。小槇さんは「地域には本当にこうした『場』が必要だと実感したし、アナログ的な丁寧な人間関係づくりも大事だと改めて感じた」と話され、これからも自身のICTスキルを磨きながら、住民の地域参画を後押しできるようアプローチしていきたいと語られました。



続いて、広島市から『「リモート」×「社会教育」の可能性』と題して、『リモート公民館ひろしま研究会』(以下リモコひろしま)メンバーのみなさんより報告をしていただきました。


【発表者】

石川さん壱岐さん高尾さん

・石川哲郎さん(安佐公民館主事)  ・壱岐祐介さん(竹屋公民館社会教育主事)・高尾暢子さん(古市公民館社会教育主事)


為政さん木原さん

・為政久雄さん(安公民館主事)    ・木原司さん(八幡東公民館社会教育主事)


【オンラインサポート】

熱田さん山本さん

・熱田有紀さん(戸坂公民館館長)   ・山本倫代さん(石内公民館主事)


広島市の公民館は中学校区に71館設置され、市から指定管理を受けた公益財団法人広島市文化財団が公民館を運営しています。発表いただいた『リモコひろしま』の7人は、それぞれ広島市内の公民館職員のみなさんです。講座では『リモコひろしま』立上げの経緯、取り組んだリモート事業、そこから見えてきた可能性についてお話いただきました。


『リモコひろしま』は、緊急事態宣言下の2020年5月に主催事業もグループ活動も休止状態となり、このままでいいのか焦りを感じた公民館職員数人が声をかけ合い発足しました。オンラインを活用した新しいつながり方を公民館事業に活かすことができないか研究してみようと、自主プロジェクトとしてプライベートの時間を使い、オンラインミーティングを開始されました。リモートに対する知識も経験もないメンバーの集まりだったそうですが、同じ悩みを抱える仲間の存在が背中を押し、できることから何かを始めようと、さまざまなカタチのリモート事業へのチャレンジが始まったそうです。


『リモコひろしま』では約2年半に取り組んだリモート事業を8つのタイプに分類し、それぞれの事業に適したタイプにまとめあげられていました。その中の一つで広島市内の遠隔地になる公民館をつないでのオンライン旅行講座では、地域交流を行うことでお互いを知る機会となりリアルでも会いたくなったことや、互いの時間や距離を気にすることなく離れていても会話が楽しめたという、リモートならではの企画となったそうです。コロナ禍だから行う講座ではなく、コロナ収束後もこうしたオンライン活用のメニューが職員の頭の引き出しにあれば、新たな公民館利用者を引き寄せることができると話されました。


そして、たくさんのチャレンジや失敗から導かれた、リモート事業で広がる可能性を4つ紹介されました。

(1)集合対面型の事業の補完にとどまらない、今までにない「新しい公民館事業」可能性

(2)公民館の新たな利用者層にアプローチでき、エリアを越えた「関係人口につながる」可能性

(3)様々な地域資源に手軽にアウトリーチでき、距離や時間をクリアできる地域のボーダレス化の可能性

(4)多様な学習者のニーズに応えることができる、自分のペースで学べる生涯学習社会への可能性



さらに、これまで区域を越えてまで交流のなかった公民館との交流が生まれたことや、仲間との活動を通して人が財産という一面を知ることができたこと等を紹介され、今では『リモコひろしま』と一緒ならばと、新たにリモート事業にチャレンジする公民館が増えているそうです。

数人の公民館職員で始めた自主プロジェクトが少しずつ周りに賛同され、広島市の公民館職員のリモートスキルアップにも貢献している様子が報告では紹介されました。「将来的には71館全部がつながってリモート事業ができたらおもしろそう」と話された言葉が印象的でした。


公民館職員がチームとなって発表された、今回の報告のカタチや『リモコひろしま』お抱えキャラクター(あまびえこ/写真下)も登場するプレゼンの工夫など、終始、報告を聞く参加者を圧倒した様子でした。何より、メンバー自身が楽しむという姿勢に、たくさんの学びが詰まっていたように思います。

リモート事業はコロナ禍だけではなく、withコロナやこれからの時代の公民館事業にも役立つ可能性があることを『リモコひろしま』の取組みから伝えていただきました。

あまびえこ




県外2つの事例報告の後、佐賀県立生涯学習センター(アバンセ)より「集わないで集う!オンラインチャレンジ」と題して報告を行いました。「集えない」という初めての出来事に戸惑いながらも、試行錯誤で取組んだコロナ禍の約3年間を振り返りました。コロナで社会のオンライン化はどんどん加速しています。アバンセでは、こうしたオンライン社会に取り残されないためにも、公民館職員と共に学びあっていきたいと考えています。

会場の様子

オンライン参加者



講座の最後は、上野さん、岡さん、古賀さんの3人から事例報告の感想を含めて、講座全体へのコメントをいただき、講座を終了しました。


【コメント】

●事例報告から、職員が楽しく取り組む様子が伺えた。こうした新しいものを創り出すワクワク感を社会教育に取り戻したいと感じた。

●コロナ禍で活動は制約されたが、ICT活用でいろんな人へやさしい活動になってきている。『ながら参加』や『地理的なハンデを乗り越える』等、ユニバーサル的なものが社会教育に出てきたと感じた。

●地域の豊かなつながり方が、ICTの導入でこれからどうなるかを考えていく時代に入った。リアルやオンラインの組み合わせで学びの選択肢を増やし、学習者の人生の豊かさに社会教育がどう寄与できるのか、今度は社会教育、公民館職員の学習が問われてきている。

●公民館職員は住民の隣に座り、同じものを見ながら、問いかけながら一緒に考えていくことが大切。課題ありきではなく、何を課題として考え、何を学んだらいいのかを考えていって欲しい。あてがわれた課題や学習内容ではないものからスタートすることが公民館としての腕の見せ所。


※事例報告いただきました、岡山市、広島市のみなさん、ありがとうございました。

岡山市も広島市も、そしてアバンセもオンラインの環境や機材に恵まれているとはいえない中でのICTへのチャレンジでした。オンラインは苦手、大変だからやらないのではなく、それぞれの地域にあった新たな学びのカタチをできることから模索していく必要性を改めて感じた時間となりました。


参加者の声(アンケートより抜粋)

・コロナになって、公民館の地域課題へのアプローチがしづらくなっていると感じていますが、改めて課題へ向き合おう!と心に決めました。「黒子なのに地域を巻き込む」(こっそり・・・)を頑張ります。
・新しい発見の連続でした。オンラインは難しいと思っていましたが、やってみたいと思いました。
「高齢者にこそオンラインは必要だ」まさにそう思います。
・今までの課題解決支援を振り返ることで、社会教育の役割を再確認することができました。後半では、オンラインを活用している岡山、広島の公民館職員さんの活動を知ることができて、大変勉強になりました。
・かまえずにゆるくつながるから始めて、どんどんやりたいにつながっていくオンライン実践をやってみたい!と思いました。ワクワクしました。
・できない、思考停止ではなく、走りながら考えること、今日学んだことを活かしていきたいです!
・もっとICTの勉強をしなくては。通常公民館に来れない方にICTを使えたらと思いました。
・最近モチベーションが落ちていたのは、新しい事業を創り出すワクワク感が足りなかったからだと気づきました。たくさんの気づきをありがとうございました。みなさんにお会いできて嬉しかったです。
・住民と一緒に考えて一緒に走るような事を意識して事業を展開したいと思いました。コロナ禍の対応としてだけではなく、働く世代や若い世代をターゲットにする時にもオンラインを選択肢に入れていきたい。
・先駆的な取組み、また長年かけて積み重ねてこられた取組みはとても参考になりました。聴いて満足ではなく、一歩踏み出したいと思いました。
・社会教育施設で働くうえで大切なことを再認識できました。また「できない」からやらないのではなく「やったことないけどやってみよう」の精神で、失敗を恐れずオンラインに取り組んでいきたいと強く思いました。
・コロナ禍で見えにくくなっていた他県の様子を知ることができ、心強かったです。


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