令和3年度生涯学習関係職員実践講座(地域支援編2)報告


佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編、ステップアップ編、地域支援編)を行っています。

地域支援編2は『次世代に地域をつなぐ ~「学び×公民館」で叶える地域課題の解決への一歩~』をテーマに開催しました。



次世代に地域をつなぐ ~「学び×公民館」で叶える地域課題の解決への一歩~

令和4年2月22日(火)10時00分~16時00分

1. 未来に託せる地域づくりと公民館活動 ~若者を巻き込んだ取組みに学ぶ~

今回は、講師として東北大学大学院准教授の石井山竜平さん、事例発表者として宮城県白石市斎川公民館の佐藤幸枝さん、白石市まちづくり推進課の佐々木さつきさんにお越しいただきました。

講座では、様々な課題を抱える地域の中で次世代に未来をつないでいくために、社会教育、公民館の現場でどのように取り組んでいけばいいのか、講義や事例から学び、語り合いながら考えていきました。



講師

【講師】石井山 竜平 さん(東北大学大学院教育学研究科 准教授)


石井山先生は東日本大震災の発災を機に、被災地における地域再生のための学びの場の調査研究に取り組まれています。震災から11年間、復興に向けてのまちづくりの現場を見てきた中で「災後には、災害以前の社会の性格が浮き彫りになって現れ、それが災後地域の主体的な再生を阻んでいる」という現実があることに気づかれたとのこと。「地域の未来に対して、様々な立場の人たちが集まり、それぞれの意見が尊重される空気感の中で話し合いを進めていくという、民主主義的な場づくりがまだできていない」ことを改めて認識したと述べられ、そのことは地域づくりを社会教育の側面から考える上で、根本的な課題であると指摘されました。

そして、これからの人口減少社会では、地域のみんなでこれまでと違う時代をつくっていく必要があり、そのために民主主義的な場をつくっている事例として、斎川公民館の実践を挙げられました。

「あの手この手で、なかなか声が出せない人の声を引き出し、対等な関係と全員参加の場をつくろうとしている。果たしてどうされているのか?それを当事者から聞いて学びとってもらいたい」と呼びかけられました。

事例発表

事例発表

【発表者】佐藤 幸枝 さん(宮城県白石市斎川公民館 事務長)


斎川公民館は、事業内容や実施方法等に工夫をこらし、地域住民の学習活動に大きく貢献している公民館を表彰する「優良公民館文部科学大臣表彰」において、令和元年度に東北初の「最優秀館」に選ばれました。



斎川地区では、校区内の小学校と中学校の閉校を機に高まった地域コミュニティ崩壊の危機感から「持続可能なまちづくり」をめざす動きがうまれ、地域住民の考えやニーズを把握するために中学生以上の全住民対象のアンケート調査を行いました。その結果を分析し、若者の声を聴くための年代別会議、LINEを活用した情報発信と若者グループとの協力体制づくり、地区団体の行事や組織の棚卸しなど、新たな取組みに挑戦されてきた過程を紹介いただきました。

「今まで取り組んできたことは、住民の学びの場で声があがってきたことに対して、どうしたら解決につながるのか考えてやってきた結果。地域には様々なことを得意とする人がたくさんいて、公民館活動に巻き込むことで主体性も発揮されてきた。これからも話し合いを大切にして、住民とともに地域づくりを進めていきたい」と、今後の展望についても述べていただきました。

石井山先生からは「斎川公民館はデータを大事にして、見える化し、住民から聞いた声に徹底的に向き合う姿勢を貫かれている。地域のみんなが納得がいくようにデータを活用し、取組みにつなげている」と実践のポイントを示されました。

グループワーク

続いてのグループワークでは『地域で民主主義的で主体的な話し合いが成り立つために、それぞれの地域で取り組んでいること』と『斎川公民館の取組みから何が学べるか』について意見交換しました。

受講者からは「公民館で地域づくりの話し合いワークショップをしているが、同じ顔触れが多い状況。参加者が自由に意見やアイデアを話せるような場をつくって、新しい人の参加につなげていきたい」「公園も無くて子どもの遊ぶ場所も少ない地域で、公民館で何かできないかと悩んでいる。アンケートで子育て世代のニーズを掴み、できることをさぐっていきたい」「SNSを活用しての有効な情報伝達のあり方を住民に広めていくことも、公民館として大事な取組みだと感じた」などの声があり、地域住民の巻き込みや公民館からの発信のあり方についての気づきが得られた様子でした。

グループワーク グループワーク


2. 一人ひとりが幸せな地域の未来をめざして ~社会教育・公民館職員としてできること~

事例発表

事例発表

【発表者】佐々木 さつき さん (宮城県白石市まちづくり推進課 係長)


白石市では、斎川公民館を含めた地区公民館は指定管理者制度による地域委託によって運営されています。

佐々木さんは昨年度まで教育委員会生涯学習課に所属し、地区公民館への指導や助言を行うという立場から、公民館職員と関わってこられました。


その中で、職員の専門性を高める学びの場の必要性を感じ、研修会や事務長会議などを開催するようになったことや、公民館が新しいことに本気で取り組もうと動き出した際は、その覚悟に応えようと支援に奔走してきたことなどをお話しいただきました。

そして「日頃から地区公民館との関係性を築き、その地域の生活実態や住民の声を知ることが、私たち行政の取組みのヒントになる。地域住民が気づき、学び、納得して取り組むことに、地道に向き合って支援をしていくことが必要」と、これまでの経験から感じた行政職員としての役割について述べられました。

また「公民館の職員同士、また地域団体との関係が良好なところや、公民館の事務室に住民が気軽に立ち寄っているような公民館では、地域の取組みが進んでいる実感がある。そんな良好な関係性を促せるようにこれからも働きかけていきたい」と、住民主体のまちづくりを推進するための支援のあり方も示されました。


トークセッション

その後のトークセッションでは、発表では聞けなかったところを石井山先生から質問され、行政職員と公民館職員との協働関係や、地域の幅広い課題を解決していくための行政・公民館・講師(専門家やファシリテーター)の3者の連携の必要性などについて、佐藤さんと佐々木さんの実践から具体的にお話しいただきました。




グループワーク&ふり返り

グループワークでは『地域(公民館)と行政との関係における現状や課題』と『地域と公民館の関係をより良くするために白石市の取組みから学べること』をテーマに意見交換を行い、今回の講座をふり返っての感想や気づきもあわせて、受講者から発表してもらいました。

「公民館で担当課職員の方と会う機会が増えれば、地域の状況や事業のことなどもっと相談したいと思う」

「公民館の現場も行政の一端を担っているし、地域と行政をつなぐ役目があるという意識を持ちたい」

「行政だからこその蓄積されたデータがあるので、それらも上手く利活用して事業企画を考えたい」

など、公民館職員、行政職員それぞれの立場でできることを模索している様子が伺えました。

また「地域住民との距離感を縮めるために、声を聴く機会や話し合う場をもっとつくっていきたい」「誰もが来やすい、行ってみたい、自由に発言できるような公民館をめざし、社会教育の場として地域を盛り上げていきたい」など、これからの意気込みを共有する時間となりました。

ふり返り ふり返り


最後に、事例発表のお二人より「行政職員が地域住民と関わりをもつためには、その人たちが集まる場に出ていくことから。学習会など話し合う場をつくり、自らそこに行って話を聴くというアプローチは大切」「公民館で新しい取組みを考えるときは『自分たちが今、何ができるか』『どこまでだったらできるか』という目線も必要。住民のニーズとともに、どちらもよく見極めながら進めることが持続可能な事業につながる」と、それぞれ等身大の言葉でアドバイスをいただきました。


参加者の声(アンケートより抜粋)

・講義では難しい問題について具体例を交えながら説明され、とても分かりやすかった。

・これからの公民館活動、まちづくりについて改めて深く考えさせられ、方法論のヒントを得られた。

・事例発表が大変参考になった。地元に持ち帰って共通点を再考し、課題解決に役立てたい。

・自分が課題だと感じていることに対して、道しるべとなるようなことを学ぶことができた。

・より一層、地域住民とのコミュニケーションが必要だと感じた。積極的に関わりをつくっていきたい。


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