令和3年度生涯学習関係職員実践講座(地域支援編1)報告


佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編、ステップアップ編、地域支援編)を行っています。

地域支援編1は『未来へのつながりを紡ぐ 地域づくりに向けて』をテーマに開催しました。



未来へのつながりを紡ぐ 地域づくりに向けて

令和4年2月3日(木)10時00分~16時00分

1. 今、これからの社会教育のカタチ ~つながりを紡ぐためにできること~

佐賀大学大学院准教授の荻野亮吾さんを講師にお招きし、地域のつながりづくりや多様化している地域課題の解決に向けての社会教育としてのアプローチの方法と、様々な団体と連携・協働する取組み方について、ご自身が活動支援している事例を交えながらお話しいただきました。


講師

【講師】荻野 亮吾 さん(佐賀大学大学院学校教育学研究科 准教授)


講義は「地域のつながりづくりの方法」と「地域の課題解決の方法」の2つの柱で進みました。

まず「地域のつながりは誰がどうやってつくるのか?」を説かれるにあたって、「社会関係資本(ソーシャルキャピタル)」という考え方を紹介されました。社会関係資本とは、人と人のつながり(ネットワーク)や人と人の間の関係性(お互いに助け合う互酬性や信頼性の規範)に基づく資産のことで、社会関係資本が豊かな地域は経済や治安、教育など様々な面で状態が良くなるといわれているそうです。

その社会関係資本が醸成されるためには、社会教育施設の活動、学校と地域の連携、地域団体の活動といったものがベースにあり、そこに社会教育の役割があると述べられました。

また、つながりづくりのポイントは「関係基盤」(人と人の関係性の根底にある縁/地域の組織・団体)を組織化することであり、「公民館を中心に既存の関係を広げる(ボトムアップ)」「テーマを設けて地域に今ある関係を活用してつなぎ直す(リサイクル)」「趣味などを縁にした新たな関係をつくる(グループ化)」「共通のテーマやコンセプトで集まり関係を広げる(プラットフォームづくり)」の4つの方法を提示されました。

「つながりづくりの第一歩は、自分たちの地域が今どういう状態なのかを知ること。つながりができて地域が変わったと実感するには時間がかかるため、現状に応じて戦略的に進めていくことも必要」と、地域の現状をしっかり診断することの大事さを伝えられました。


次に地域の課題解決の方法について、大事なのは「プロセス」であり、その過程をどのようにデザインするのかが重要であると述べられました。

そして、プロセスの6つの段階(企画→調査→計画→組織化→実施→評価)を示され、

「対話のデザイン」(住民の考えや地域の現状を「見える化」し、情報共有できる話し合いの場をつくる)

「組織のデザイン」(地域の状況に合わせて必要とされる「身の丈にあった」組織をつくる)

「評価のデザイン」(活動を可視化して外部に発信し、自分たちで活動をふり返る機会を持つ)

について事例を通して具体的に話していただき、プロセスにおける戦略的な視点を学ぶことができました。


「プロセスの6段階は行ったり来たりしながら進むもの。活動を続ける中で『ズレ』を感じたら、調査や計画から見直すことも必要」と、その時の活動が地域の実態に即しているのかチェックしながら取り組むよう呼びかけられ、「社会教育の活動はすぐに成果が見えて役立つようなものではないが、中長期的にみれば、地域のつながりづくりのためには非常に重要な活動。いろいろな人や組織の巻き込みができているのか意識しながら取り組んでいくことが大事」とまとめられました。

2. 学び・実践を通した人づくりと地域づくり ~地域に根付いた活動から学ぶ~

事例発表

福岡市七隈公民館 ~連携は交流から 出会いを仕掛ける公民館~

事例発表 事例発表

【発表者】松尾 規文 さん(七隈公民館 館長)・江藤 浩美 さん(七隈公民館 主事)


七隈公民館は現地から、Zoomでオンライン登壇いただきました。

発表では「地域の団体が連携するには日頃の交流が必要、交流するには出会いがないとできない。それを仕掛けていくのが公民館の役割」という思いから、公民館を中心に自治協議会や各種団体、小学校、中学校、大学などと連携し、さまざまな住民が関わって取り組んでいる様子を紹介いただきました。

中でも、多世代の出会い・交流の場として平成16年から始まった意見交換会(座談会)は、子どもも大人も誰もが自由に意見を言える場として地域に定着しているそうです。

「意見交換会は『夢を語る場』だから、何かの結論を出すことはないが、参加者の意見やアイデアから新しい活動団体が発足したり、子ども主体で実施するイベントの開催につながっている」と、長年積み重ねてきた成果が地域の新たな魅力になっているとお話しいただきました。

鳥栖まちづくり推進センター ~掛け合わせていく「まちづくり」~

事例発表 事例発表

【発表者】古賀 賢祐 さん(鳥栖まちづくり推進センター長)・山下 友美 さん(鳥栖まちづくり推進センター 職員)


鳥栖まちづくり推進センターは生涯学習に関する事業の企画・運営と、まちづくり推進協議会や地区の各種団体の事務局を担っています。

発表では、主催事業のマンネリ化脱却のために講師や事業に関わった人の縁で人材の輪を広げていったことや、センター広報紙の取材で自治区に出向き、住民との関係性が築けたことが新たな人材発掘にもつながったことを紹介いただきました。また、3年前から実施している「秋まつり」は『地域資源の活用×地域おこし』のようにテーマの掛け合わせを工夫し、関わる住民や団体を増やすことで、地域全体が一体となって取り組める行事になることをめざしていると話されました。

「私たち職員に必要なのは、掛け合わせる力と巻き込む力、地域への思いを届けていくこと。一人ひとりの力が組み合わさって地域の力となるように、つながる過程を楽しみながら取り組んでいきたい」と今後の抱負も述べていただきました。


質疑応答

続いて、事例発表者への質問タイムでは、

「学校と地域のかけ橋として、どのように働きかけて関係をつくっているのか?」

「事業を見直し、新しく変えていく上で、職員同士でどのような話し合いをしている?」

など、受講者自身の悩みを反映した質問も出されました。




「七隈公民館は意図的にいろいろな組織や団体とつながり、対話の場づくりの工夫がなされている。『決めない場』と『決める場』を目的によって使い分けている点がうまくいっているポイントなのでは」

「鳥栖まちづくり推進センターの積極的な地域への取材とSNSの活用は、地域資源を掘り起こし、可視化するためには、地道だけど良い方法。掛け合わせてつなげていくという事業の作り方にも大きなヒントがある」

と、講師よりそれぞれの事例についてのコメントもいただきました。


グループワーク

次に、受講者自身の公民館やセンターでの取組みについて、プロセスの6段階に沿ってふり返るワークを行いました。

「子ども対象の事業なのに子どもたちの声を聞くこともなく、何をするのか内容を決めていた。企画や調査の段階で改善すべき点がある」

「行事やイベントを実施するには地域団体の協力が必要だが、メンバーの減少や高齢化によって継続が困難になっている。担い手の掘り起こしとつながりづくりは常にやっていかないといけないと再認識した」

など、プロセスに着目することで見えた課題や気づきがあったようでした。

グループワーク グループワーク


最後に講師より、「地域団体の担い手不足や高齢化などの課題への解決策はやはり、つながりづくりをしっかりしていくこと。地域で何かコトをおこしていくときの連携・協働(パートナーシップ)は、日頃のつながりの関係性(ネットワーク)があるから上手くいくというように、補完的に働く部分がある」と、住民との日常的な交流や関係性づくりを進めながら、対話する場をつくって人を巻き込んでいく展開が大事であるとお話しいただきました。


参加者の声(アンケートより抜粋)

・講義を通じて、公民館やまちづくりセンターの役割と、今後実行すべきことの方法論を改めて理解できた。

・事業の進め方、企画から実施におけるプロセスとその評価の視点を学べてよかった。

・地域住民を巻き込むヒントがたくさんつめこまれていた。「プロセス」を大切に取り組んでいきたい。

・発表事例は参考になる点が多く、次年度の事業に活かしていきたい。

・どこの市町、公民館も頑張っているので、このまちに住んでいて良かったと住民に思ってもらえるように、

 公民館職員として自分も頑張りたい。


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