令和3年度生涯学習関係職員実践講座(ステップアップ編1)報告


佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編、ステップアップ編、地域支援編)を行っています。

ステップアップ編1は、昨年来からのコロナ禍での社会教育、生涯学習における活動、とりわけ公民館の現場にスポットをあて、各地の実践事例に学びながら、今、そしてこれからの地域社会において、公民館として、また社会教育に携わる職員として何ができるのかを考えていきました。



まなびの場を閉ざさない! 新たな「つながり」づくりの可能性

令和3年9月8日(火)13時00分~16時00分

今回の講座は当初、アバンセでの会場受講を予定していました。しかし、県内の一部地域に「まん延防止等重点措置」が適用されたため、会場受講が難しい方への対応として、急遽、オンライン(YouTube ライブ配信)を併用してハイブリッド形式で開催しました。

1. オンラインでもリアルでも! コロナ禍を切り拓いた公民館の現場から

ミニ講義「コロナ禍の社会教育・公民館」

昨年3月、全国的な学校休校要請と緊急事態宣言が出され、公民館などの社会教育施設も休館し、地域行事や各種団体の活動も自粛の動きが広まるなど、社会教育の活動は大きく影響を受けました。今日まで約1年半続いているコロナ禍をふり返り、私たちが経験したことや地域で起きている問題について、講師の上野事業統括が講義を行いました。


講師

【講師】上野 景三(佐賀県立生涯学習センター事業統括)


「新型コロナによる自粛要請の中で、社会教育・公民館の対応策はガイドラインや上部機関からの判断に従うことが順当だったともいえるが、一方で、公民館の利用ができなくなった住民の抱えるストレスは、当人たちのフレイル(虚弱)化などの問題として実際に進んでいる。そのような事態を防ぐために、私たちはどれだけの努力をしてこれたのか、あらためて問われる必要があるのではないだろうか」と投げかけました。

また「コロナ禍が続く中で『何をしたらいいのか?』の模索をしていかないと、学びはとまってしまう、公民館もとまってしまう、という状況は避けられない」と指摘した上で、「社会全体をみると、オンライン型の学習や仕事のやり方が普及し、ポストコロナの時代ではリモートやハイブリッド形式を用いることが当たり前になるかもしれない。社会教育、公民館における活動も、何を対面で行うのか、どこまでオンラインに代えられるのかどうかということを、もっと考えないといけないのではないだろうか」と、社会の変化に応じて取り組んでいく意識を持つよう呼びかけました。

そして、このあとの事例発表を聞くにあたっては「それぞれの公民館で、こんなことに取り組んでいかなければならないと考えてチャレンジしたのはなぜなのか、また、コロナ禍の事業展開としてどのような形を模索してきたのかについて学びとってほしい」とポイントを示しました。


事例発表

事例発表では、福岡市と奈良市をZoomでつなぎ、2つの公民館からオンラインで登場していただきました。

別府公民館(福岡市)

事例発表 事例発表

【発表者】中村 恭子 さん(福岡市別府公民館 主事)


別府公民館では、昨年の緊急事態宣言解除後に公民館を再開した後、受講者向けに「通信」を発行して手渡すことで、つながりを保つ取組みから始めました。そして、インスタグラムやfacebookによる公民館情報の発信、YouTubeチャンネルを開設しての講座やイベントの動画配信、様々な開催方法を試行したZoom講座の開催など、オンラインを活用しての「学びの場」を開拓。公民館職員と地域住民双方のオンラインスキルの向上も図りながら取り組んだ実践について紹介いただきました。

公民館主事歴15年という中村さんの「オンラインツールが使えるようになって、数年かかっていたような動きが数か月で展開している。主事になって初めて経験する変化のスピード」という実感のこもった言葉から、状況に応じて試行錯誤しながら地域に向き合われている様子が伝わってきました。

オンライン活用については「公民館活動の基本はやはり対面だと思っている。オンラインを入口に公民館のことを知り、事業に関わってくれる人が増えて『今度は公民館に行ってみよう!』と思えるような工夫や仕かけが必要」と今後の展望を話してくださいました。

最後に「コロナ禍で大きく変わる社会に取り残されてしまう人がいないように、何より公民館がとり残されることがないように、今できること、今しかできないことをやっていきたい」と抱負を述べられました。

登美ヶ丘南公民館(奈良市)

事例発表 事例発表

【発表者】福山 哲治 さん(公益財団法人 奈良市生涯学習財団 登美ヶ丘南公民館 主任)


登美ヶ丘南公民館では約2か月間の長期休館を経て、昨年6月から公民館活動を再開し、コロナ対策により当初計画していた事業内容を変更して実施。屋外での活動からやってみようと、高齢者のひきこもり防止も兼ねて、シニア健康ウォーキングや野鳥観察会などを開催しました。その参加をきっかけに野鳥や草花の写真集を作り始めた人もいたりと、学習意欲が発展して学びのつながりが見られたそうです。

他にも、毎年恒例の公民館まつりを、作品発表やグループの活動紹介ポスターを展示する「学びの活動紹介展」として開催したことや、大学の学生サークルとオンラインで打合せを重ねながら開催が実現した子ども対象の自然体験教室などを紹介していただきました。

また、公民館の再開にあわせて文集作りにも着手。「コロナ禍の私と公民館活動」というテーマで自粛生活でのエピソードや経験を作文として寄せてもらい、『生活綴り文集 登美南誌録』として編集。同じ地域の人が前向きに暮らしている姿に元気づけられたとの共感の声が多く、住民の仲間意識や共存意識が認知されることとなりました。この文集作りをきっかけに、今年度から文章教室が始まっています。

「できないとあきらめるのではなく、できることを形にして実行していくことが公民館への地域住民の信頼や期待に変わっていくと実感した」と福山さん。「住民の声からニーズをくみ取り『学びの場』を提供することでつながりを広げていきたい」との想いを述べていただきました。


2. 今、地域に寄り添う公民館の役割とは ~見出されたもの・変わらないもの~

トークセッション

実践事例をさらに深めていくトークセッションでは、上野事業統括からの問いかけに答えていただき、発表では聞けなかったところのお話を伺うことができました。


別府公民館の中村さんへ「講座の配信をYouTubeチャンネルで取り組み始めた理由は?」と尋ねると、「人を集めて講座ができない状況でも、公民館でどんなことをやっているのかを知ってもらえるチャンスだと思った。偶然にも、公民館にビデオ機材があったこと、コロナ禍以前に動画編集講座を開催していたことから、自分たちで動画撮影と編集ができる見通しができた」と中村さん。「飽きずに見てもらえるよう動画の編集は四苦八苦したが、公民館サークルや地域のママ友メンバーが動画制作に関ってくれたりと嬉しい展開につながった。これからYouTubeの活用は、地域の人が制作に携わり、地域の情報を発信するものに特化して、より公民館らしさを出していかないといけないと思っている」と、今後を見据えてのコメントもいただきました。


登美ヶ丘南公民館の福山さんへ「災害級のショックが地域社会に与えられた際に、その時の状況や当事者の想いを文章として綴り、記録として残していくことは個人ではなかなかできないこと。それを公民館で取り組んだ意義はとても大きい。完成した文集に対する地域の人たちの反響は?」と尋ねると、「幅広い年代の人たちに手に取ってもらえて、大変好評だった。公民館がその人その人の暮らしの一部分になっていることが記されていて、公民館の役割を再確認できたとともに、もっと頑張らないといけないという気持ちになった」と、文集作りを通して公民館の存在意義をより強く感じたと答えられました。


また、お二人とも、もともとオンラインスキルに長けていたわけではなく、詳しい職員や地域の人に助けてもらい、使いながら覚えていったとのこと。公民館の通信環境については、どちらもWi-Fiが無い状況からのスタートで、有線ケーブルやスマホなどを駆使して環境を整えたことなどをお話しいただきました。

トークセッション トークセッション


受講者からの質問タイム

続いて、発表者お二人に受講者からの質問へ答えていただきました。

「オンラインのスキルアップのための講座を実施して、高齢者のオンライン利用率は増えている?」

「文集作りがきっかけで講座に展開していった経緯を知りたい」など、逆境の中での取組みに関心度の高さが垣間見えました。

また「公民館の周りには野鳥が飛んできたり、鳥が種を運んできた草花が咲いたりしている。館報に掲載して少しずつ紹介しているが、写真集としてまとめてみたいと思った」「自分もオンライン関係は詳しくない中で、失敗しながらできることをやっている。発表を聞いてYouTubeに興味がわいた。これから公民館の通信環境が整備される予定なので、ネットのコンテンツに少しでも慣れるように勉強したい」などの感想もあり、実践事例から自分たちが取り組めるアイデアやヒントを得て、これからの活動へのモチベーションが高まった様子が見受けられました。

質疑応答 質疑応答


最後に上野事業統括より「今回の実践事例はそれぞれの公民館で、それぞれの一歩の踏み出し方があることを示してくれました。また、オンラインの活用が『つながり』のきっかけとなり、地域人材の発見やネットワークの広がりにもなっていました。コロナ禍を契機に私たちは、人とつながることの大切さをあらためて実感させられたのではないでしょうか。皆さんの地域や公民館でも、新しいつながりづくりのためにそれぞれが一歩進むことを心がけて、自らのスキルアップや新たなチャレンジに取り組んでいってほしいと思います」とエールの言葉をおくりました。


参加者の声(アンケートより抜粋)

・コロナ禍で工夫された公民館の様々な取組みを聞いて、事業運営のヒントを得ることができました。

・計画した事業をなかなか行うことができない中でも、やれることをやろうという意欲が高まりました。

・コロナ禍であっても、屋外での活動に目を向けて公民館事業を行おうとされる姿勢に刺激を受けました。

・自館でもオンラインの活用が必要という気持ちはずっとある中で、なかなか取り組めていなかったのですが、

 インスタグラムなど手軽なところから始めて、住民に関心を持ってもらいたいと思います。

・今回、自分がオンライン受講をしてみて、距離をゼロにするオンラインのすごさを感じました。公民館の

 講座でも会場に来られない人が家から参加できたら…と考えることができました。


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