家庭教育支援者リーダー等養成講座(リーダー研修) 第4回報告

リーダー研修 親と子の未来を育むためにできること~家庭教育支援の今を考える~

今年度より家庭教育支援者リーダー等養成講座は、家庭教育・子育て支援に関わる活動経験年数に応じて「支援者養成講座」と「リーダー研修」に分かれて受講できるようになりました。

今回のリーダー研修(活動年数3年以上の方対象)は、様々な経験を重ねてきた支援者の皆さんと、私たちにできる子どもや親の育ちを支える家庭教育支援について共に考え、学び合っていきました。(連続5回講座)


「リーダー研修」のチラシはこちら (975KB; PDFファイル)

第4回 子どもの健やかな育ちに大切な大人の関わり             ~子どもへのマルトリートメントの改善に向けて~

開催日時:1月27日(木)13時30分~15時30分

この回は公開講座として一般参加者も募り、会場受講とオンライン受講のハイブリッド形式で開催しました。

講師の武田さん

講師:武田信子さん(一般社団法人ジェイス代表理事、臨床心理士)


講師の武田さんは東京からオンラインでのご登壇です。武田さんは長年勤められた大学を早期退職され、昨年、日本の子どもの養育環境のため『一般社団法人ジェイス』を立ち上げられました。そして、マルトリートメントの予防のためのアクションとして『やりすぎ教育』を上梓されました。


講座のはじめに「日本の子ども達は本当により良い状態(ウェルビーイング)で生活できていると思いますか?」という問いを投げかけられました。

私達は日本で育ち、身についた自分の価値観で、良かれと思って子ども達に色々な働きかけをしています。こうした大人の価値観が子ども達の育ちに反映されていくのですが、子ども達の育ちを振り返ってみると、勤勉さや道徳性など世界に誇れる面がある一方で、自殺や不登校、ひきこもりなど日本の子ども達が抱える問題はあふれていると武田さんは指摘されました。

「大人は子ども達に何を求めて、何を期待して今までやってきたのでしょうか。正しいと思って子ども達に教えてきたことは本当に正しかったと思いますか」と問われ、『大人の価値観の点検と転換の必要性』を呼びかけられました。


武田さんはマルトリートメントを(mal…不適切な、悪い、Treatment…扱い、対処)『不適切な関わりや対応』と用いられ、「これはみんな知らずに普通にやっていること、他人ごとではない」と話されました。

「大人達は子ども達のためにと言いながら、宿題という『残業』、しつけという『強制』、安全という『拘束』、体罰という『暴力』などを子どもに科している」と表現されました。


会場の様子


さらに『なぜ日本はエデュケーショナル・マルトリートメントが他の国より起きるのでしょうか?』と問われ、世界40ヵ国の子どもの育ちをみてこられ、海外での子育て経験もある武田さんは次のように述べられました。

・世界幸福度ランキング上位の国の学校教育は、子どもを評価したり、比較することをしない。

宿題や塾もなく、勉強は学校で身につけるもので、留年や飛び級もあり、子どもにあった教育をするのが一番という価値観がある。

・日本では子育てや教育の成果は、子どもの進学や就職、豊かな生活で評価されるため、子どもをよく育てなければというプレッシャーが親や周りの大人にのしかかっている。


つまり、教育をめぐる虐待は親が悪いわけではなく『親を取り巻くこうした社会環境が、多くの虐待を生んでしまっている』ということを理解することが大事だということです。


講座では、武田さんが考える家庭教育について以下のように紹介され、学校教育のあり方が家庭教育にも関わってくると述べられました。そして、日本の教育は何を大事にしているのか、私達がどんな価値観で子どもを育てているのかを考え直す必要があるのではないかと、日本の教育の当たり前を疑ってみる視点を提示されました。

<家庭教育>

子ども達が多様な世界に出会い、自分で学んでいけるような環境を保証する。
・日々の生活を通して子ども達が学んでいくような状況を保証する。
・子どもの主体性をはく奪、阻害しない。
・学校教育と異なる家庭での時間を大切にする。


また、家庭教育でとても大事な時期となる乳幼児期からの6年間についても話題にあげられました。

この時期は子どもの身体、心や脳が一挙に発達する時期です。家庭教育は普段の生活や遊びの中から色んなことを学んでいくもので、脳や五感の発達には外遊びでの刺激が一番良いと言われています。

「小さい頃から学力や知能テストの勉強をさせるのが家庭教育ではないことを、親達に理解してもらうことが大切。脳をしっかり作っておけば勉強はいつでも取り返しがつく」と話され、子どもの権利(生きる・育つ・守られる・参加する)をぜひ学んでほしいと呼びかけられました。

スクリーン画面


「大人の私達も子どもと同じように未熟なところがたくさんあり、はずかしくてだめなところがいっぱいありますよね」「子ども達は大人をちゃんとみているんです」「子どもが明るく健やかな顔をしている状態が続いていれば上手に育っているけれど、大人の様子をうかがう子どもがいたら、それはきっと何か間違っていると思います」等、語りかけられる一つひとつの言葉に、深くうなずきながら耳を傾ける参加者の皆さん。


「子どもをしっかりと見つめ、子どもから学んでいくことが『大人から子どもへのマルトリートメントの予防』につながります」という武田さんのメッセージに、それぞれの活動や、自身の子育てを振返りながら、これからできることは何かを考えられている様子が伝わってきました。

講座の感想(アンケートより抜粋)

・良かれと思っていたことがマルトリートメントだったとわかり愕然としましたが、社会全体の価値観の中で、仕組みの中で起こりうることだということを知り、考えさせられました。

・子どもの育ちにはいくつもの要因が関連しており、家庭支援の難しさを痛感しています。子どもや保護者ともじっくり話して、あせらず穏やかにコミュニケーションをとりながら支援していきたいとあらためて思いました。

・親は気づいていないだけ、家庭でのフォローが思うようにできない時は地域で、またはまわりの大人が支援していく、そんな場や機会をたくさん作ってあげたいと思いました。

・子育て中の大人にプレッシャーがかかっている。そのような現状の中、子育てとは何かを再度考えさせられました。


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