令和3年度「女性に対する暴力防止講演会」を開催しました

子どもを性虐待・性被害から守る~絵本「おしえて!くもくん」を通じて学ぶ予防教育の大切さ~

日  時:令和3年11月17日(水)13:30~16:00

会  場:アバンセホール

開催方法:会場参加、オンライン参加(後日YouTubeにて録画配信)


「女性に対する暴力をなくす運動」期間に合わせ、女性に対する暴力防止講演会を開催しました。

今年度は、会場参加に加えオンライン参加(録画配信)で開催し、202名(会場82名・オンライン120名)の方にご参加いただきました。

 

第1部 講演 

演題 子どもを性虐待・性被害から守る~絵本「おしえて!くもくん」を通じて学ぶ予防教育の大切さ~

講師 慶應義塾大学総合政策学部教授(警察庁長官官房付) 小笠原和美さん 

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 “1 is too many” <一人でも、一度でも、多過ぎる>

 “Nothing will work unless you do ”<あなたが動かなければ何も変わらない>

 逆を言えば、みなさんが一歩でも踏み出せば、もしかしたら何か変えていけるかもしれない。この言葉は、みなさんにお話する際の願いを込めたキーワードです。という言葉で講演が始まりました。

 

 先ずは、現在の国の動向について話され、2017年に刑法性犯罪の規定が110年ぶりに改正され、政府は性犯罪・性暴力対策の強化の方針として、令和2年度から4年度までの3年間を「集中強化期間」とし、性暴力・性犯罪をなくすための取り込みが進められていること。そのような政府の方針を踏まえ、文部科学省は、子どもを性犯罪・性暴力の当時者にしないための「生命(いのち)の安全教育」を推進しており、性暴力の被害者、加害者、傍観者にならないための、幼児期から高校までの年代別に応じた教材が作成されていることを紹介されました。(作成のためのヒアリング調査に小笠原さんも協力されています)

 

 次に、統計資料等を示しながら被害の現状について説明され、内閣府「男女間における暴力に関する調査(令和2年度調査)」によると、男女の約24人に1人、女性は約14人に1人が、無理やり性交等をされた被害経験があると答えています。うち未成年の被害は5割となっており、加害者との関係は、女性の約3割が「(元)交際相手」、男性の約4人に1人は「学校関係者」と回答しています。無理やり性交等をされた被害の相談先は、「友人・知人に相談した」が約4人に1人、そして約6割もの人が「どこにも誰にも相談しなかった」と答えている現状を知って欲しいと話されました。

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 そして、子どもたちを性暴力の被害者にも加害者にも傍観者にもしないための対策について話され、子どもたちは、自分が何をされているか分からない、どう対応していいのかを教えられておらず、目上の家族や、学校の先生、習い事の先生などは、「言うことを聞くのが当たり前」という特別権力関係が存在すること、優越的な立場の人に何かを求められたとき、拒絶するのは非常に困難で、加害者はこの地位や信頼を悪用し、被害者を困惑させて加害行為に及んでいること。

 そして、子どもたちを性暴力の被害者にも、加害者にも、傍観者にもさせないためには「予防教育」が重要であり有効であることを示され、小笠原さんが全面監修された、プライベートゾーンを教える絵本「おしえて!くもくん プライベートゾーンってなあに?」は、「水着を着ると隠れる部分は、プライベートゾーンとして大事な部分だよ。簡単に人に見せたり、さわらせたりしてはいけないよ、誰かがそれを見ようとしたり、さわろうとしたら、NO!(イヤだと言って)、GO!(逃げて)、TELL!(相談して)。」と被害に遭う前に伝えておくことが大事、保護者の方には、「あなたは大事な存在だから、困ったことがあったらとにかく何でも相談してね、必ずあなたの味方になるよ。」と、子どもに安心感と心の寄りどころになって欲しいと話されました。

 

 子どもから被害を打ち明けられたとき、「まさか」と思うようなことでも、まずは子どもの話を信じてあげることが大事で、疑ったり、うろたえたりすると、子どもは「この話はこの人にしてはいけない」と思って撤回してしまい、場合によっては二度と話してくれなくなるところがあるので、このような子どもの特性を心にとめて、聴いて欲しいと話されました。

 

 性被害は、自責の念が強く出ますが、問題は被害者の状況ではなく、たとえどんな状況であったとしても、悪いのは被害者の意志を無視して、そのような行為に及んだ加害者であるということを肝に銘じていただきたいと強く訴えかけれました。

 

 最後に、Be an Active Bystander(アクティブ・バイスタンダー)「行動する介入者になりましょう」という動画を紹介され、「性暴力を見て見ぬふりをして許してしまっていることが、この社会から性暴力をなくすことができない原因ではないかと問題提起をされ、決して見て見ぬふりをしないで欲しい。」と呼びかけられ講演が終了しました。


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第2部 トークセッション 

テーマ 佐賀県のDVや性暴力等の予防教育について考える

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登壇者

 慶應義塾大学総合政策学部教授(警察庁長官官房付)小笠原 和美さん

 佐賀子どもシェルターばるーん施設長 桑原 宏樹さん

 佐賀県DV総合対策センター所長 菖蒲 庸子

コーディネーター

 アバンセ事業統括 上野 景三

  

佐賀子どもシェルターばるーん施設長 桑原宏樹さん 

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 佐賀子どもシェルターばるーんは、20歳ごろまでの女性専用のシェルターで、虐待などを受けた子どもたちが共同生活をしており、子どもたちは大人への不信感を払拭できず、気に入らない言葉を投げかけて私たちを試し、どのように対応するかを観察している。自分たちは笑顔で接し「話してくれてありがとう、手伝ってくれてありがとう」などの言葉かけをし、自己肯定感を高めて欲しいという思いで毎日を過ごされていること等を話されました。

 県警少年サポートセンター配属中に、6人組の女暴走族のうち2人を担当されたときの事を紹介され、「苦しんでいる子どもたちの心の声に、積極的に耳を傾ける事の大切さを彼女たちが教えてくれました。その出会いのおかげで今の自分があると感謝しています。」と話されました。

 また、配属中に幼稚園や保育園に出向かれ、保護者の方に「DVが及ぼす子どもへの影響」について話す機会を設けられていたことを紹介され、目の前にいる子どもに手を伸ばすことの大切さと、幼稚園、保育園の保護者の方に対する教育の必要性を呼びかけられました。

 

慶應義塾大学総合政策学部教授(警察庁長官官房付)小笠原和美さん

(会場のみなさんからの事前質問についての回答)

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 幼い頃に性的虐待などの被害に遭った子どもは、思春期になって被害を認識し、そこから心の傷つきが始まってしまうことがあるため、周囲の大人の方は「何があってもあなたを大事に思っているよ、いつでもあなたの話を聴くよ。」というメッセージを伝えていくことは大切であること、性加害児童については、少年サポートセンターが、加害者への指導や保護者に対する助言や心の支えになってくれることを紹介されました。

 また、2019年に制定された福岡県性暴力根絶条例の中に、予防教育が含まれていることを紹介され、学齢期に応じた予防教育カリキュラムの検討委員会を作り、県庁でプログラムを組み立てて、性暴力対策アドバイザーを各学校に派遣されており、県庁でコーディネートしてプログラムを作成し事業を行われていることは、非常にすばらしいと話されました。


小笠原さんからメッセージ

 「絵本「おしえて!くもくん」は、子どもたちに使いやすいように絵本という形にしたので、ぜひ低学年、小学校入学前も含めてより幼い年齢の児童にも読んでほしい絵本です。幼稚園、保育園の保護者の方達に、お父さんお母さんたちの日常の態度や言動が、子どもたちの成長にいろんな影響を与えている事も含めて、知っていただくことも大事な活動だと思います。」


 佐賀県DV総合対策センター所長 菖蒲庸子

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令和3年度DV等予防教育事業について説明しました。

(1)小学生向けDV予防教育事業(主に5・6年生)

   良好な友人関係、暴力の予防等に関する講話等

(2)中学生向けDV予防教育事業

   暴力(デートDVや性暴力等)の予防や良好な

   人間関係の構築等に関する講話等

 (3) 高校生・大学生向けDV予防教育事業

                 交際間における暴力防止に関する講話等

              詳しくはこちらをご覧ください。 (705KB; PDFファイル)


 性暴力救援センター・さが(さがmirai)の支援内容は、相談支援、医療支援、精神的支援、法的支援を行っており、対象者はこれまで、配偶者以外の人から過去2年以内に性暴力被害を受けた「県内在住」の女性及び15歳以下の男性としてきたが、令和3年3月1日から「急性期」の医療支援については、「居住地、被害地に関わらず」支援の対象にしていることを説明しました。


アバンセ事業統括 上野景三(まとめ)

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 桑原さんに、学校の先生のように子どもたちを見守っていく大事さを教えていただき、子どもたちが抱えている問題の伴走を、桑原さんたちが支えられておられると思いました。小笠原さんに、三重県と福岡県の取り組みを紹介していただきましたが、DVセンターは今後どのように取り組んでいくべきかについて、試行錯誤しています。どの学校の図書館にも、「おしえて!くもくん」の絵本があり、「これ読んだことあるよね」という風にスタートすることができたら、かなり広がってきたと思っていいのではないかと思います。

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  < 参加者の声(一部抜粋) >

  • 対等な関係を構築することの大切さと難しさを実感しました。明らかな上下関係がある権力の下での性虐待や性被害から弱者(女性や子ども)を守るには、どうしたら良いのか。時代に即した性教育を通した予防教育の充実と防止につながる周りの人たちの意識向上ではないかと思いました。
  • 日本の学校現場では、本日のような性教育は全くと言っていいほどなされていないので、「おしえてくもくん」を使用した教育をすぐにでも始めてほしいと思った。
  • 被害の相談を受けた際の支援方法や注意点等詳しく説明していただき、大変勉強になりました。被害者、加害者を作らないためにも、小さい頃からの予防教育が重要だとわかりました。あなたが動かないと何も変わらないと言われた通り、自分にできることをやっていけたらと思いました。
  • どうしたら信頼される大人になれるのか。重い問題・難しいことだと思う。桑原さんの活動に感銘を受けました。若い母親への教育(支援)の必要性を強く感じました。

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主催:佐賀県    主管:佐賀県DV総合対策センター 

後援:佐賀県警察本部、佐賀県教育委員会、佐賀県PTA連合会、佐賀県医師会、佐賀県弁護士会

   一般社団法人佐賀県公認心理師協会、公益社団法人佐賀県看護協会、佐賀県人権擁護委員連合会

   認定NPO法人被害者支援ネットワーク佐賀VOISS、国際ソロプチミスト佐賀有明

   国際ソロプチミスト佐賀、佐賀県民生委員児童委員協議会、国立大学法人佐賀大学、西九州大学

   西九州大学短期大学部、佐賀女子短期大学、九州龍谷短期大学(順不同)

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