令和2年度生涯学習関係職員実践講座(課題編2)報告

佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける
「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編・実践編・課題編)を行っています。

課題編2は、講義や公民館の実践事例などから、コロナ禍の対応や、地域の持続可能な世代間循環のあり方等、現代的課題やニーズについて学んでいきました。


公民館職員は何ができるのか【地域づくり編】~わたしたちが支えていきたい地域・人を考える~

 令和3年3月4日(火)10:00~16:00

1 職員が地域と社会の変化に向き合うということ

【講師】岡 幸江さん

(九州大学大学院人間環境学研究院教育学部門社会教育学 教授)


今年度、社会教育現場では新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、公民館の一斉休館や、社会教育の根本と言える「集うこと自体の回避」など、大きな変化がもたらされました。この講座では、新しい社会教育のカタチがどのようにもたらされていくか、地域や社会教育の現場を見つめてこられた岡さんに、コロナ禍に注目した地域と社会の向き合い方について、お話しいただきました。

 

福岡市公民館のコロナ禍における実践調査から見えてきたことは「オンライン実践などの何か特別な取り組みというより、これまでの公民館実践の日常の延長上にある、自分達でもできそうなこと、ちょっと新しいことに一歩を踏み出し取り組んでいたことです。例えば、それぞれ違う場所や時間でウォーキングを行い、それをスタンプラリーで共有したり、新たな通信の発行や空き時間を利用して図書の整理をしたりなど、もがきながらも、まずは行動してできることにチャレンジをされていました。そうする中で、これまで公民館に来たくても来れなかった層の声や思いに耳を傾けるようになるなど、地域の姿や今後のあり方が見えてきました」と事例を交えながら語られました。

 最後に「人の暮らしはニーズによって変わり、それに合わせて講座も変わっていきます。コロナ禍の非日常は、私たちに様々な気づきを与えてくれたのではと思っています。この気づきを忘れず、未来の社会教育につなげてほしい」とエールを贈られました。



2 コロナ禍の地域と公民館を考える

事例発表

「安武こども食堂」

緒方 麻美さん(久留米市安武校区まちづくり振興会職員)

安武こども食堂は2015年12月にスタートしました。その背景には、小学校のPTA会長をしていた時期に子どもの「落ち着きがない」「大人の話を聞けない」「単語で話す」など、昔とは何かが違うと感じていたということがあります。また当時、新聞や報道で子どもの貧困が多く取り上げられていたことから「自分達の地域はどうなのだろう」と地域の方が集まり、意見交換をしました。「貧困はありえない」「対象を貧困世帯に限定すると差別を生むかもしれない」など、様々な意見が出されたあと、それならば「とりあえずやってみよう」と、初会合からわずか2週間後に始動しました。安武小学校に通う児童の兄弟姉妹18歳未満はすべて対象です。実行が早かったのは、振興会長(公民館長)の理解や地域の方の協力を得ることができたからです。農業振興地域なので声をかければ米や野菜が集まります。野菜をなるべく多く使い、季節が感じられる食卓を心がけ、多い時は80人ほどの子どもが集まりますが、実はフードバンク久留米から届くお菓子が目当てだったりもします(笑)。コロナ禍になってからは、弁当配布に切り替えました。月2回、子どもの様子に注意を払いながら声を掛けるようにしています。

お母さん世代には、こども食堂の受付や「お母さん業界新聞ちっご版」の折り作業などちょっとした役割をつくり「地域の誰かと良い関係ができると楽しい」「誰かの役に立つとうれしい」という気持ちを育てながら、居心地のいい居場所を作っています。お母さんが元気だと子どもものびのび明るく育つ。いろんな世代の人が一緒に食卓を囲んで、会話を楽しみながら皆で子どもの育ちを見守る。地域が主体的に子育てに関わり、保護者や学校に寄り添うことが大事だと感じています。

 


「赤坂ゆかいクラブ」

中村 留美子さん(福岡市赤坂公民館主事)

2007年に発足し、現在も続いている「赤坂ゆかいクラブ」。団塊世代の定年退職の受け皿作りが話題になっていた当時、公民館には訪れる人は同じ顔触れで、サポートしてくれる人達も限られていました。そこで、「公民館や地域を応援してくれる人たちを見つけたい」との思いで、60歳代前後の地域住民を対象に、赤坂ゆかいクラブを立ち上げしました。まずはたくさん講座を仕掛けて、公民館に来てもらうことにしました。職員が話しかけ、参加者と仲良くなる。また行ってみようと思わせて、居場所を作る。そうすることで自主的になってくれるのでは、と当初はそうイメージして取り組んでいました。ですが、これでは参加者の継続的な定着にならないと、実行委員会を発足しました。すると自分達でルールを決め、毎月会合し、講座を運営するようになりました。団塊世代の60歳代までの校区民限定とメンバー制にしたことで、仲間意識が高まり、より交流が深まったのだと思っています。3年目には公民館外にも活動の広がりが見られ、清掃のボランティア活動や高齢者サロンなどを自主的に立ち上げるなど、地域活動にも取り組むようになりました。公民館で顔を合わせる自治協議会の人から声をかけられ、自治会長や民生委員になったり、高齢者サロンや子育てサロンでボランティアをしたりと、地域を担う人材として多方面で活躍しています。コロナ禍で難しい状況ですが、人と人が交わり、ごちゃまぜの楽しいつながりの中から人が育つと思っています。また、それをつなげるのが私たちの役目だと感じています。


トークセッション

トークセッションでは2人の話をさらに掘り下げていきました。岡さんの「どうやって参加者の主体性を育んでいきましたか」という問いに対し、中村さんは「集まるメンバーに合わせて、いろんな仕掛けをしてきました。また、表を作ったりシールを希望項目に貼らせたりと小道具もたくさん準備して話し合いをしています。ここのプロセスが醍醐味で、皆が話に乗ったり、思わぬ展開になったりして楽しいんです」と、はつらつとした笑顔で語られました。緒方さんからは、今後について「災害時の炊き出しで役立つ大人数の料理の仕方など、年配の方の経験や知恵をお母さん世代に引き継ぎながら、世代間交流する機会を設けたいです」と抱負を語られました。思いついたらすぐ取り組みたくなるという緒方さん。今後の活動からも目が離せません。


   

  


全体共有

午後は「いいねワード」と「もっと深めたいワード」に書きだした事例発表の感想や質問の共有からスタートしました。「職員が異動でいなくなったらどうするか」の質問に、緒方さんは「お母さん達が自分から関わりたいと言い始めるまでに、約5年かかった。時間をかけて少しずつ関わりを作って、地域の人を育てることが大事だと思います」と答え、中村さんは「自分の人材育成のやり方を次の職員に引き継ごうとは思っていない。人それぞれのやり方で取り組む方が、いろんな広がりが生まれていいと思います」と、率直な意見を述べられました。


 グループワーク

ワーク1 「新型コロナウイルス」

今回のグループワークは、岡さんのサポートのもと、担当職員が進行を行いました。まず、県内外で取り組まれている公民館等のコロナ対策について紹介した後、今年度をふり返り、コロナ禍の影響や対策、また気づきについて、グループで話し合いました。発表では「規模を縮小したことで人、コトにじっくりと向き合えるようになった」「夜にウォーキングをしたり、敬老会で記念品を贈るときには絵手紙を添えたりと視点を変え、工夫を凝らすようになった」など、参考になる取り組みや気づきが紹介されました。


ワーク2「それぞれの課題・困りごと」

次年度の活動に活かせるようにと、参加者自身が現在抱えている課題や悩みを事前に提出してもらい、課題別にグループ分けをしてワークを行いました。課題として多くあがった「次世代育成」「若者の参画」「学校や団体との連携・協働」の3グループをつくり、まずはそれぞれが抱える課題について考え、その背景や原因がどこにあるのかを書き出し、整理していきます。その後、グループ内で発表し、アドバイスや意見をもらい合いました。「同じような職場環境の人の意見は貴重なヒントになった」「悩みや境遇を分かち合えた」といった声があり、有意義な交流の場になったようです。

その後、グループの中から1つの課題を取り上げ、その課題を解決するためにはどんな取り組みができるか目的や対象を設定しながら、企画案を考えていきました。


 


  

参加者の声(講座アンケートより抜粋)

  • コロナ禍のキーワードの中で、公民館と地域の本質的な話を知ることができました。
  • 地域の状況に応じた、また時代の流れに沿った、公民館の運営の実践を聞き、大いに役立ちました。
  • 講義も事例発表も内容が濃くて楽しい時間でした。緒方さん、中村さんの熱量に背中を押されました。
  • 地域を越えて共に考え、共に意見交換したり、発表の場が持てました。
  • 次年度に向けてのやる気が出ました。できないではなく、何ができるかを考えていきたいと思います。

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