令和2年度生涯学習関係職員実践講座(課題編1)報告

佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける
「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編・実践編・課題編)を行っています。

生涯学習関係職員実践講座(課題編1)は、「防災」をテーマに開催しました。

公民館職員は何ができるのか【防災編】~防災の視点から公民館を再点検する~

令和2年12月23日(木)13:00~16:30

1 公民館の避難所運営を捉える

【講師】
講師山城 千秋さん(熊本大学大学院教育学研究科 教授)


講師宮尾 有さん(熊本市花園公民館 社会教育主事)


地域によって起こりうる災害や地域の防災体制が異なる中、私達はどのような対応をしていけばいいでしょうか。自身の所属する公民館の避難所運営や防災対応について改めて見直し、何ができるか、講話や様々な災害事例から学び、模索していきました。


山城さんは「公民館職員としてできることの一つに記録を残すということがある」と述べられました。ご自身の出身地である沖縄では、300年前に起きた大津波のことを字誌や伝説に残してあり、現在でも「あの時は」と地元の人々に語り継がれているそうです。被災者の立場から、熊本県内の公民館を調査し、職員の声や当時の様子を細かに記録した冊子づくりに注力された山城さんは「現実に起こったことを風化させず、当時の思いや気づきを後世に活かすことも大事」と語られました。


熊本地震が起きた当時、多くの避難者が詰めかけた震源近くの熊本市秋津公民館に所属されていた宮尾さんからは、避難所での体験や気づき、県内19公民館の職員で行ったふり返り、避難所閉鎖後の学習再開への取り組みなどについて、お話しいただきました。避難所生活では、健康面やお金などの不安、見通しが立たないストレスなどを抱える中、避難所では「仲間外れにされた」「ルールを守らない」などのトラブルが起こるようになりました。そこで、朝夕の一日2回、情報共有の時間を持つことに。話をよく聞いて、きめ細やかな対応を心掛けすることで、問題の解決とともに絆がより深まり、楽しい雰囲気の中過ごせるようになったそうです。また、行政やNPO団体と連携した相談窓口の設置や罹災証明書など様々な手続きの提示なども、皆で話し合って決められました。この経験から住民と向き合う大切さを実感した宮尾さんは、震災後も住民と交流を図る事業を取り入れ「通常の公民館運営においても住民と丁寧に向き合うことを心がけている」と伝えられました。


 

2 防災の視点から地域づくりを考える

事例発表

事例発表では、行政、公民館、男女共同参画、それぞれの立場から災害時の現状や対応、思いなどを語っていただきました。


【発表者】

発表者

・浦川 一浩さん(大牟田市地域コミュニティ推進課社会教育主事)

三池地区公民館の館長の時に、断水時の給水所の運営や熊本地震を経験し、今年7月の豪雨ではコロナ禍の避難所運営に携わりました。それらの災害時対応で学んだことは、(1)住民や行政と情報を共有し、住民がパニックに陥らないよう、適切に説明すること。(2)突発的な事案に対してもスピード感を持って対応すること、です。地震後、館長会で職員の体験や情報を蓄積するようになり、震度4以上の際は所属する公民館ではなく、自宅近くの公民館にかけつける体制になりました。私自身としては、臨機応変に対応できるよう、十分な準備やシミュレーションを心がけるようになりました。


発表者

・江頭 るり子さん(佐賀市立赤松公民館主事)

7年前に始めた防災フォーラムでは、赤松の図面を使った赤松版避難所運営ゲームHUGの作成や、令和元年の佐賀豪雨被害を組み込んだ改訂版ハザードマップづくり、専門家を招いての講義や、大町町への現地研修、炊き出し訓練などに取り組んできました。次の課題を明確にしながら、住民の皆さんと一緒に考え、仲間の輪が広がるるように努めてきました。活動をとおして、地域の皆さんが交流を深め、防災だけでなく、高齢者問題や子育て支援などの様々な地域課題にも助け合いながら生き生きと活動されるようになり、人材発掘と地域活性化のきっかけになったと思っています。


発表者

・杉山 陽子(佐賀県立男女共同参画センター企画副主任) 

東日本大震災や阪神・淡路大震災などの災害時、避難所では視線を遮る仕切りが設置されていない所が多く、着替えや授乳をする更衣室や、下着を干す場所がない所もありました。また、物資の不足や悩みがあっても、男性の担当者に「女性のニーズが分かってもらえない」「言い出しにくい」という現実もありました。男女がともに同じ立場に立って情報収集や物事の取り決めを行うことが、災害に強い地域を作るうえで大切なことではないかと考えています。避難所での課題などをふまえて「男女共同参画の視点を取り入れた災害時避難所運営の手引き」を作成しました。避難所の運営マニュアルを作られるときにご活用ください。


トークセッション

トークセッションでは、災害時の対応や避難所運営について「公民館だからできたこと」や「これまでを見直し、新たに取り組んだこと」などについて、登壇者の皆さんに問いかけながら、学びや気づきを深めていきました。最後に、一言キーワードで「私が思う公民館」について、提示していただきました。 


「公民館は拠り所」

普段から顔の見えるつながりがあり、突発的な対応もできる、避難してくる人にとっての「拠り所」だと思います。(浦川さん)

 

・「職員と住民がともに育ちあうところ」

地域にはいろんなスキルや経験をお持ちの人がいて、私自身、地域の人に助けられ、育ててもらいました。職員も住民も、一緒に育つところだと思います。(江頭さん)

 

・「関心を持つ!」

「愛の反対は無関心」だとマザー・テレサは言います。苦しむ者に関わりを持たずに傍観者(無関心)であることが愛の対極にあると。つながりや学びの根底にある「人に関心を持つこと」が大事だと思います。(宮尾さん) 

 

・「男女共同参画の実践の場」

地域の自治に参画できる場所であり、地域と行政をつなぐ唯一の場所じゃないかなと思っています。そのために、意見を言いやすい環境であったり、困った人に寄り添い、誰かを応援したりできる場所であることだと思います。(杉山)

 

・「結(ゆいまーる)」

この言葉は沖縄で相互補助、皆で平等に助け合うという意味です。誰かと一緒に共同作業しながら達成していく。一人で学んで自己満足ではなくて、学んだことや地域の人を結びついていく。そういう役割が公民館だと思います。(山城さん)



  

【進行】関 弘紹(佐賀県立生涯学習センター事業部長)



山城さんは公民館の現代的な課題や役割について、

・自治公民館も公共的な社会教育施設として利用を検討していく必要があること。

・行政職員も被災者。家族や自身を犠牲にするのではなく、住民それぞれが自治能力の向上を図り、行政職員も一住民として一緒に取り組むこと。

・高齢者や障がい者、外国人だけでなく、外で遊ぶ場所がなくてストレスを抱えた子どもなど、保証できなかった様々な災害弱者の声をひろうこと。そのために日常からの関係性を構築すること。

・コロナ禍という厄災の中、対面の大切さというのも社会教育は大事にしてほしい。

と、まとめられました。


参加者の声(講座アンケートより抜粋)

  • 公民館という場の重要性や、災害時の役割、平時の役割などについての理解を深めることができました。
  • 実際に被害を受けた公民館職員が、どのように避難所運営をしたのか、生の声を聞くことができて、とても参考になりました。
  • 改めて防災に関する意識が高まりました。コロナ対策の避難所運営に関しては心がけていましたが、男女共同の面にも重きを置いていかなければいけないと思いました。

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