アバンセ館長コラム第12号(令和5年3月)
アバンセ館長コラム 第12号 「誰一人取り残さない」~ つながる力 ~ (令和5年3月)
SDGsの存在を初めて知った時に、「誰一人取り残さない」という宣言が胸に刺さりました。貧困、飢餓、病気、不平等、自然災害、環境破壊、戦争。現実にはおびただしい数の人々が今この時も苦しんでいながら、「誰一人取り残さない」と言うのは、余りにも現実と乖離した、綺麗ごとの理念ではないのか、とも正直思いました。
しかし一方で、そうした誹りを十分承知したうえで、「誰一人取り残さない」という宣言を採択したのであれば、地球の危機をどこかの誰かの話ではなく、自分につながる問題として対峙しようという、強い決意も感じました。望んですぐには手に入りませんが、人間が連帯する強さ、まさに希望の光を、その宣言に感じたのです。
私たちは、自分の人生すらままならない、葛藤の連続の日々を生きています。もともと人間は自分本位の生き物。他者の人生の苦難を神様のように解決する力なんてないし、社会を変える力なんてないと思いがちです。私も皆さんも、突然怖いことが起こると立ちすくみ、そこから距離をとろうとする本能的な一面を持っています。それは弱さでもあり、自分を守る精一杯の姿でもあります。何度も自分の身の上に不運が続くと、もしや他者は自分を貶めようとしているのではと疑心暗鬼に陥ります。深く傷つけば、孤立無援の心境にもなるでしょう。独り、世界から切り離され、取り残された瞬間を味わったことはないでしょうか。
でも、生きていると、時に、暗闇に光が差し込むような場面に遭遇します。自分の存在にあたたかい関心を向けてくれる他者の存在に気づくと、自然界の一部に戻れた、大いなる命につながることができたような安堵感を覚えます。
砂一粒一粒のような私たちですが、たった一粒では生きていけません。私たちには、他者とつながることができる力が内在しています。
これから、SDGsを学ぶ中で、あるいは日常生活の中で、自分と他者の痛みをつなげて、声を上げ、ともに行動する出来事に遭遇することがあるかもしれません。社会になんらかのプラスの変化をもたらすことができる仲間との出会い。そんな機会に恵まれたら幸いです。

アバンセ館長 田口香津子 プロフィール
アバンセ館長
佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)
認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長