アバンセ館長コラム第10号(令和5年1月)

アバンセ館長コラム 第9号 1人ひとりの尊厳(令和5年1月)


「日本人は、エコノミックアニマル」、「佐賀んもんはケチだから」、「最近の若者は全くなってない」、「高齢者は、とかく頑固で」、「女は感情的で」などの断定的な言葉を聴くと、悲しくなります。「十把ひとからげにしないでほしい。日本人にも、佐賀人にも、若者にも、高齢者にも、女性にもいろんな人がいるでしょう。決めつけた言い方はやめましょうよ。」と言いたくなります。でも、私も、偉そうなことは言えません。気が付かないうちに、偏見を持って、あるいは無知であるために、誰かの心を傷つけてきたことがいくつもありました。

 

 教員をしていた三十代の頃のエピソードです。「もう、ちゃんと口を拭きなさいよ。唇に海苔が付いているわよ。」と良かれと思って笑いながら学生に声を掛けたら、「これは、生まれつきのシミです。」と答えが返ってきたことがありました。「まだ若いのだから、だらだら歩かない。急いで。遅刻しちゃうよ。」と注意した時には、「先天性で、足の長さが左右で違います。こんな歩き方ですみません。」と言われました。思いもかけない返答にたじろいでしまいました。「何も知らなくて、ごめんなさい」と小さなつぶやきしか出せませんでした。

ある学生が、卒業の頃に、「いつも教室の後ろの端っこに座っていたからやる気がない子と思っていたでしょう?先生の授業は面白かったよ。でも、私、高校の時に被害に遭ってから、後ろに誰か座っているのが耐えられなくて、あの席以外は無理だった。教室に居るのが私にとっては必死だった。」と告白してくれました。言ってもらわなかったら、授業に意欲のない消極的な学生として記憶していたかもしれません。

きっとこんなすれ違い、誤解、思い込みは、数えきれないほどにあちらこちらで起こっているのでしょう。勝ち負け、優劣で測られる社会の一面だけが強調されて、自分自身のかけがえのなさを実感できない人々も多くいます。私たちは、時に間違いを犯す、愚かな人間ですが、その間違いから新たな学びを得て、よりよい自分へと変容できる存在でもあります。

 

「大丈夫。みんな一人一人違うのが自然なことだよ。」「他人の評価であなた自身が創られているわけじゃない。あなたの尊厳は誰からも傷つけられるものじゃない。」

 

 男女共同参画センターの事業にも、生涯学習センターの事業にも、DV総合対策センターの事業にも、1人ひとりの尊厳を大事にしようとする共通する理念があります。この仕事に携わりながら、私たちアバンセスタッフも自らの生き方を振り返っているところです。

 
 アバンセ館長 田口香津子    プロフィール


 アバンセ館長

   佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)

 認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長

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