令和4年度生涯学習関係職員実践講座(ステップアップ編1)報告

佐賀県立生涯学習センターでは、生涯学習・社会教育関係職員に必要な知識や実践力を身につける「生涯学習関係職員実践講座」(基礎編、ステップアップ編、地域支援編)を行っています。

今年度は初の試みとして、「課題解決支援おうえんBOOK(※)活用編」「ICTを活用した新たな学びを考える編」の2つの連続性を持たせたテーマで実施!その様子をご紹介します!


【※課題解決支援おうえんBOOKとは…市町、公民館等、佐賀県立生涯学習センター(アバンセ)の3者協働で地域の課題解決に取り組んでいる「課題解決支援講座」の10年間、31地域の試行錯誤をぎゅっとまとめた冊子。令和4年3月発刊】

おうえんBOOK表紙


ステップアップ編1 課題解決支援おうえんBOOK活用編

「社会教育にふれる 交流なくして講座なし」令和4年9月30日(金)13時00分~16時30分



チラシはこちら (727KB; PDFファイル)


7月に開催した「課題解決支援おうえんBOOK活用編」基礎編(1)に引き続き、上野景三さん(前アバンセ事業統括、西九州大学子ども学部学部長)を講師に迎え、課題解決支援講座10年間の取組みからみえてきた『交流なくして講座なし』という言葉の持つ意味について、講義・インタビューダイアローグ・グループワークをとおして考えていきました。

講師の上野さん

講師:上野 景三さん


交流づくりは地域づくり ~交流は人が集うと自然と生まれるものですか?~

初めに、講師の上野さんは10年間の課題解決支援講座からみえてきた、地域の課題解決に向けた講座づくりに大切なことを紹介されました。「こんなことが重要だったのでは」という経験則から抽出された6つの項目は『交流づくり』『調査』『まちあるき』『祭り・イベント』『防災』『子ども・学校連携』です。その中で『交流づくり』は全ての事例に共通しており、とても大事なポイントだと述べられました。

また、「交流をして楽しかっただけで終わり、その後に何も残らないのはもったいない。私たち社会教育の事業では『学びがあって、交流もあって』というスタイルを目指そう」と呼びかけられました。講座のタイプによっては『学びが先か、交流が先か』違いがあるかもしれませんが、『学ぶためには、交流がないと足が前に進まない』ということです。

交流と学びの図

さらに、小さな『つぶやき』をひろうアドバイスをされました。たとえば、公民館利用者の何気ない会話にも耳を傾けてみる。企画会議のちょっとした休憩時間、お茶を飲みながら「さっきの話はこんなことよね!」「私もそう思った。あなたは?」など、形式的な会議からは出てこないような企画のヒントや、思いつかなかったアイデアがつぶやかれることがあります。職員同士の交流はもちろん、住民同士や住民と公民館職員の交流も、こうしたつぶやきからはじまりひろがっていきます。講座に人が集まれば、自然と交流は生まれると思いがちですが、そういうわけではありません。「企画の段階から、参加住民がコミュニケーションをとりやすい内容にできているかという点も意識しながら、学びが生まれる講座につくり上げて欲しい」と語られました。


インタビューダイアローグ

課題解決支援講座は市町、公民館等、アバンセの3者協働で取組んでいます。インタビューダイアローグには、それぞれの立場からお一人ずつ、そして参加住民の立場で講座に参画された、計4名の登壇者を迎え、講座取組みのきっかけから、気づいたこと、講座終了後の様子などについてお話を伺いました。

発表の様子



登壇者 鶴さん

【公民館職員の立場から】

2012(平成24)年度 佐賀市立循誘公民館

講座名:「地域でみつけるあなたの幸せ」

鶴 ちふみさん(佐賀市立北川副公民館主事)




公民館の困りごとは地域の課題ではなかった!

10年前は、地域の課題を真剣に考えたこともなく、とりあえず「公民館の応援団」をつくりたいとの思いで課題解決支援講座に手をあげたと話されました。講座よりも打合せの時間がはるかに長かったのが印象に残っていると言われ、地域のことや講座に対して、熱く職員同士で話をしたのも初めてだったと振り返られました。講座では、参加住民が自分のやりたいことを人前で話すことに拒否感を示される様子をみて『ボランティア育成は公民館が思っている課題で、地域の課題ではない』ことに気づかれたそうです。しかし、企画づくりの時から「3回の講座でボランティアの育成はできない。講座の後のフォローアップが大事」という講師のアドバイスを受けていたので、お茶を飲みながらおしゃべりをする「お茶ご会」を開催されました。その時、住民の「みんなでごはんを食べたら楽しい」というつぶやきがきっかけとなり、月1開催「公民館カレーの日」につながったそうです。公民館の利用団体が持ちまわりで工夫を凝らしたカレーをつくる、それぞれの主体性が発揮できる場となっています。10年経った今でも、職員が変わっても続いている秘訣は、公民館から地域に向けて、カレーの日開催の思いを発信し続けたこと。そして、日ごろから、職員同士の話し合いや住民の話に耳を傾けるなど、ちょっとした努力や仕掛けがあったからでなはいかと語られました。


登壇者 長澤さん

【社会教育行政職員の立場から】

2020(令和2)年度 唐津市大良公民館

講座名:大良しあわせプロジェクト

長澤 加奈さん(唐津市教育委員会生涯学習文化財課職員)




住民のみなさんと一緒に私自身も変わっていった!

以前は大阪で仕事をしていた長澤さん。令和元年度から唐津市役所で働き始められました。課題解決支援講座は教育委員会に配属された2年目に、大良公民館の職員のみなさんと一緒に取組まれました。その時初めて地域(大良)の実情や地域にはそれぞれの考え方があること、まちづくりは公民館を中心に取組んでいることを知ったそうです。講座の回を重ねる毎に変わっていく住民の様子を目の当たりにし、正直驚いたと話されました。実際、1回でも話す機会があってお互いを知ると、次に会って話し合う内容が深まり、参加する住民の講座への取組みが変わることを感じられたそうです。また、長澤さんも、館長や公民館職員と顔を合わせ、長く話す機会はこの時が初めてだったとのことで、地域のために公民館がどのような思いで関わっているかということを知ることができたそうです。また、話をするだけが交流ではなく、講座を通してみんなと気持ちを分かち合え、新鮮な体験だったと振り返られました。最後に、住民は自分の地域への思いを口に出さなくても、しっかり持っている。行政にいる立場として、住民の思いに寄り添って、それを引き出す役割があることを深く学んだと述べられました。


登壇者 圓城寺さん

 【住民の立場から】

 2017(平成29)年度 小城公民館桜岡支館

 講座名:地域で子育て 伝えないと伝わらない

 圓城寺 真理子さん(ま・まんでぃ代表)



楽しい居場所づくりは、地域の人を知ることから始まる!

小城市の市民団体「ま・まんでぃ」という大人の居場所づくりの代表でもある圓城寺さん。仲間と共に、地域みんなで子育てをしていこうという活動に取組まれています。桜岡支館と同じ施設にあるセンター職員として働かれていた圓城寺さんですが、課題解決支援講座に向けた話し合いの様子を横目で見ていて、ギクシャクした雰囲気が気になり声をかけたそうです。そこで偶然にも、青少年対象の事業に子育て世代の参加が少ないという公民館の困りごとを知ることに。そこから『住民と保護者』両方の立場で企画に関わり始め、いろんな声の一つひとつを拾い上げて講座に反映してもらったことがとても嬉しかったと述べられました。講座では、参加した保護者達と体を動かし、子どもが作ったケーキを食べるというちょっとしたことで、とても会話が盛り上がりお互いを知ることができたことや、その人の得意なことを知るための名刺づくり講座に取組んだことなどを振り返られました。圓城寺さんはこの講座の取組みを引継ぎ、地域の子育てをテーマに語り合う「ま・まんでぃカフェ」と、市民の出会いの場にもなっている異業種交流「Bar真理子」の活動に取組まれています。地域の人を知り、その人のできることを引き出しながら活動につなげていくことを講座から学んだと話されました。


登壇者 北村さん

【アバンセ職員の立場から】

課題解決支援おうえんBOOK編集担当

北村 恵理子(佐賀県立生涯学習センター企画主幹)





脱・ギスギス感 まずは職員同士がつながることが大事!

課題解決支援講座主催者であり、「課題解決支援おうえんBOOK」編集を担当した佐賀県立生涯学習センター(アバンセ)企画主幹の北村より、2017(平成29)年度に小城公民館桜岡支館で開催した当講座をアバンセ職員の立場から振り返りました。初めは、お互い相手のことを知らない状態でスタートするため、本音の話ができず課題設定も二転三転したが、顔を合わせる回数が増えると、職員同士のコミュニケーションがとれるようになり「ああでもない、こうでもない」と、内容の叩き合いができるようになった。立場が違っても、寄り添って歩み寄ることが大事と話しました。「地域で子育てを考える」をテーマに取組んだ小城市の講座では、参加者から「親や大人が交流し話し合う場が必要」という声が寄せられ、あらためて地域課題解決のきっかけとなる講座には「楽しんで考える場が必要」ということを再認識したことを語り、みんなで知恵を絞りながら企画を練り上げていくためにも、職員同士の交流が欠かせないとまとめました。



参加者から寄せられたコメントを一部紹介します。

・「幸せなこと、幸せを感じること」をテーマにゼロから話していくことが大事だと思いました。

・地域に寄り添い、地域を思う職員の存在、心強いです。

・住民の立場で企画から参加されていたことに驚きました。企画に当事者の声は参考になると思う。

・3者協働の橋渡し役は大変だと思います。『おうえんBOOK』の理解が深まりました。

講座にプラス交流!~住民の笑顔を引き出すちょっとした工夫~

後半はグループに分かれてワークショップを行いました。

ワークのお題は2つ。

(1)風通しのいい地域って、どんな地域?

(2)風通しのいい地域になるための学び場づくりのアイデアを考えよう


ワークの様子

ワークの様子

発表の様子








グループの話し合いでは、風通しのいい地域とは「世代間交流ができる」「誰でも笑顔で挨拶できる」「子ども達が公民館に遊びに来る」「講座に笑い声が聞こえる」など、住民同士の関係性が構築できている、お互いの顔と名前を知っている地域という姿が思い描かれていました。

そして、そうした地域を目指す公民館で取組む講座づくりのアイデアについて、活発な意見交換が繰り広げられました。それぞれのグループから「公民館が一方的に講座を提供するだけではなく、住民参加型で住民からいろいろな提案ができる雰囲気をつくることも大事」という声や、「公民館を飛び出して公園など屋外での学び場もおもしろそう」などのアイデアが出ていました。


まとめの話

最後に講師の上野さんは「風通しがいい地域と考える時に、地域の玄関があるとしたらどんなものだろうか、地域の窓はどんなところにあるのだろうかと探してみることも大切なこと。『風通しをよくするための学び場や交流の場づくり』は、公民館が風を起こしていくことができるかどうかということになってくる。公民館自らが風になって、風を巻き起こしていって欲しい」と結ばれました。



参加者の声(アンケートより抜粋)

・住民に押しつけてはいけないということ、住民のできることを知り、引き出すことが大事ということがわかりました。
・地域の問題は1回の講座では解決しない。何回も何回も講座に取り組んでいくことが必要だと感じました。
・地域の現状や、各市町で少しでもよくしようという職員や住民の思いを共有することができました。
・ワークでの「風通しの良い地域づくり」いろいろな意見がでて、参考になりました。
・いろんな人と交わることはとても大切だと再認識しました。気持ちもすごく前向きになります。
・今の自分の公民館にあてはまる問題点が多くあったので参考になりました。
・みなさん地域を良くしたいとの熱い思いと葛藤が伺えてよかったです。
・グループワークで「地域活動や公民館を使ってみたいけどチャンスがない」という意見を聞き、考えさせられました。




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