アバンセ館長ルーム

 

アバンセは、幸せに生きたい県民の応援団です。男女共同参画社会づくりの促進の拠点であり、パートナー間などあらゆる暴力の撤廃の拠点、生涯学習の振興の拠点でもあります。

    館長の仕事は、そんな多様なアバンセの魅力を発信すること。その魅力とは、人との出会いで生まれるものです。この館長ルームでは、アバンセの職員紹介とともに、その折々の出来事を通して感じたことを綴っていきます。ときどき、ふっと道草したくなるような、自在なお気持ちで、館長ルームにお立ち寄りください。

 

最新のアバンセ館長コラム

第42号 令和7年10月「人を無条件に信じることは可能でしょうか」

 先日、佐賀県社会福祉士会の学習会にて、「子どもたちを取り巻く現状と課題 ~臨床経験の出逢い、それから・・・~」というテーマで講演する機会がありました。大学時代から、事情を抱えた子ども700名と関わったこと、その後、臨床心理士としてプレイセラピーやスクールカウンセラーに従事してきて、印象に残ったエピソードを、個人情報抜きにして、具体的に話しました。振り返ると、その当時の制限や枠をはみ出して、新しい世界を求めて活動してきたことに思い当たりました。


 基本的には、カール・ロジャーズの来談者中心療法の考え方に共鳴してきました。「人間は自己実現に向かう成長力を内在している。適切な環境(人との関わりを含め)があれば、自然と良い方へ伸びていく」という信念です。エンパワメントという言葉に置き換えてもいいと思います。


 ところが実際は、目の前の子どもが表す試し言動との間で、その信念が揺れる場面も多々ありました。「駄目、間違っている、変、やめなさい」と否定・制止したくなるのです。そのたびに、「待って、自分の不安な感情を優先するの?相手を信じて待ってみようよ。」、「大事に思う気持ちを相手にどう伝えるの?」と自問してきました。結果的に、関わる過程の中で、自己決定権はその人にあり、相手のペースを尊重し、見守ることの大事さを実感してきました。(むろん、子どもからNOを突き付けられた苦い経験もあります。)


 考えてみると、これらは、お互いの日常の利益・不利益とは無関係な非日常性があってはじめて成り立つ関係でした。この時間この場所に限定されていた関係だから、相手の成長を無条件に信じるという態度に徹することが可能でした。

 

 では、日常の人間関係はどうでしょうか。立場や考え方が異なる者同士、状況が変化していくなかで、絶えず利害関係が発生しているのではないでしょうか。力関係の格差も現実にはあり、対等な人間関係を築くことは口で言うほど容易ではありません。パワーゲーム、マウントの取り合い、仲間外し、無責任な噂話も多くの人が経験します。


 複雑な人間関係の網目の中で生きていて、100%誰かの味方になる、無条件に信頼するというのは、ほとんど困難です。逆に、現実への客観性やバランス感覚を失ってしまう危険をはらみます。誰かを裏切る、だます、あくどい人々もリアルにいますから、性善説には慎重でなければ、痛い目にあいます。物事を疑って身を守る姿勢は決して悪くない。


 顔の見える日常の人間関係を観ていると、私を含め、一貫性を持つ人はそう多くありません。日和見と揶揄されても、相手によって態度が揺れるのが、どこか自然な姿にも映ります。距離をとったり、ごまかしたり、おもねったり、非難したり、疑ったり、謝ったり、強がったり、再びすり寄ったり、・・・している姿が垣間見えてきます。自分もその渦中にいます。


 人を無条件に信じることは現実には難しい。そうであったとしても、人としての愚かさや弱さを自覚しつつ(ここ大事!)、よき人間に成長したいと思い続けている人への寛容さは、この先もずっと失いたくないと思います。(あ~、こんな気持ちを捨てきれないとは、やっぱり、性善説の片鱗を握りしめて手放せないのかな~。騙されやすさを周囲に与えている気がします。)


 ただ、最近困ったことが、加齢現象。些細なことで、ひがんだり、むくれたり、あきらめたりする自分を見つけて、ぎょっとすることもあります。記憶力、理解力、表現力の衰えに比例していないか心配。死ぬまで、よき人間に成長したいのになぁ。(苦笑)

まぁいいか、ちょっと美味しいものを食べて、元気を出そう。秋は美味しいものが多いですから。





 

アバンセ初代館長の船橋邦子さんと対談しました。

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 アバンセ館長 田口香津子    プロフィール


 アバンセ館長

   佐賀女子短期大学 学長 (2018.4-2022.3)

 認定NPO法人 被害者支援ネットワーク佐賀VOISS理事長

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