令和4年度男性のための介護支援講座

 佐賀県立男女共同参画センターでは、男性介護者(介護する男性)に対する男女双方への意識啓発を図るために、「ジェンダー」と「介護」をテーマに講座を開催しました。

 本講座は、介護を始める前の心構えとして、介護とうまく向き合うために必要なことを学ぶ講座です。 

「介護する息子たち ~親の介護と向き合う~」

 講師:平山 亮さん(大阪公立大学大学院文学研究科准教授)


講師写真 今年度は、「介護する息子たち~親の介護と向き合う~」をテーマに大阪公立大学大学院文学研究科准教授の平山亮さんにご講義いただきました。

 講師の平山さんは、もともと中高年男性の人間関係を研究されていたそうです。その延長線上で、男の人が親の介護にどう向き合うかというテーマに出会い、息子介護(息子による介護)の研究をすることになったとのことでした。


 はじめに、介護は誰が担ってきたのかを教えていただきました。親の介護が必要になった時に子どもが結婚している場合には、息子の妻が親を介護するのが日本の「普通」だったと思いがちですが、「それは違います」と平山さん。江戸時代まで遡ると武家では親の介護は息子の義務であり、介護休業制度や介護マニュアルのようなものもあったそうです。また、職場と家庭がくっ付いていた庶民の間では、農業や家業の合間に手が空いている人が介護をするのが普通であり、家族も家族じゃない人も、男性も女性も誰もが協力して分担していたとのことでした。

 職場と家庭が離れた近代以降、「男は仕事」「女は家庭」のような性別分業が進みましたが、介護が今ほど問題にならなかったのは、高齢化率が低かったことやきょうだいが多かったことなど、介護を担う人の割合が少なかったことをあげられました。妻が夫の親の介護をできたのは、この時代だけであり、誰もが介護を担う可能性のある今の状況は「普通」のことだとお話されました。


 そして、「今や男女ともに介護を担う時代になった!」と良く言われているし、言いたくなるが、本当にそうだろうかと厚生労働省「国民生活基礎調査」の「同居の場合に主に誰が介護を担っているか」の2001年から2019年までのデータを見ながら、注意すべき点を教えていただきました。

 このデータを見るときに、義理の娘と息子を比べ、義理の娘の介護者が減り、息子の介護者が増えてきたことを見て、男性介護者が増え、女性介護者が減ってきたと見てしまいがちです。しかし、この続柄の数字を見てわかることは、夫の親の介護の場合に限ったことで、男の人と女の人がどれだけ介護を担っているかを見るためには、義理の娘と同じ立場である義理の息子、または娘と息子を比べなければならず、比べるべきものを比べたときには、女の人の介護への関わりは減っていないことや夫の親を中心に考え過ぎていること、女の人は同居していると実の子並みに介護者になりやすいことなどを指摘されました。


 また、平山さんは、息子介護の研究をする中で、多くの息子介護者やその妻にインタビューをされています。その時に「誰が介護を主に担っているか」の質問をすると、息子は、「主に自分がやっていて、妻には手伝ってもらっている」と答え、妻も同じように答えるそうです。「手伝い」とは、補助的なサポートを言い、それがなくても成り立つことを意味しますが、妻がやっていることは、それが無くても成り立つような「手伝い」ではなく、介護にはカウントされないが、介護をするには必要なことをしていると指摘されました。例えば、食事を食べさせるために必要な買い物や調理。着替えをさせるための服の洗濯。介護する人自身が生活するために必要な家事などのように、それがないと介護が続けられない仕事=家事のことです。これらは息子の介護者が結婚している場合には、妻が担っている場合が多く、娘の場合は、結婚していたとしても自分で担っている場合が多いそうです。女の人は介護を主に担っていない場合でも、このような家事を担い、介護するための環境を整えているとお話されました。


 さらに、介護に対しての見方(対応の仕方)や看方(ケアの仕方)について、性別による傾向の違いを息子介護や夫婦間の介護に関する調査から教えていただき、息子介護の実態や困難について学びました。また、男性は相談できずに孤立しやすいと言われるが、介護に関して言えば、女性も相談しにくい状況にあることを学びました。それは、「女性だったらケアができて当然」というような、今だに根強く残っている思い込みが原因であり、そのために相談できない女性は多く、女性も孤立しやすい状況にあるとのことでした。


 最後に、介護の準備は、介護保険制度を知ることや介護スキルのノウハウなどを学ぶことだけではなく、男の人は女の人に比べて、介護の仕方にどんな傾向があるのか「あるあるを知る」のも準備の一つだということを改めてお話されました。そして、夫は、義理の親の介護自体をお手伝いすることはできないかもしれないが、妻が介護しやすいようにと家事を分担することはできること。さらに、「男だからケアができない」「察することができない」などと、介護が思うようにできないのを男だからと性別に結び付けて考えずに、周りの声に耳を傾け、思考錯誤しながらやってみることが大切ですとまとめられました。

講座の様子


(10月29日 土曜日 13時30分~15時30分 アバンセ第3研修室)

※後日、YouTubeでの録画配信を行いました。

参加者からの感想(抜粋)

  • 今まで自分が思っていた「ふつう」を変えることができたため。

  • 男女の視点の差について知れたことが良かったです。

  • いろいろな介護の形を知りました。介護する側、される側、十人十色だと思います。試行錯誤しながら「楽しく」介護できるような気持ちを持つことが大切だと感じました。

  • 目からウロコがいっぱい落ちたみたいで(笑)。データや統計の分析が「さすが!」と思った。データや統計って、分析次第!誤解するとまずいことに!

チラシ (953KB; PDFファイル)(令和4年度男性のための介護支援講座)

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